年収は増えたのに生活は苦しい?10年前と現在で年収・生活はどう変わった?
2026.08.14 (金)
ここ数年、「昇給したはずなのに生活が楽にならない」「以前より貯金が増えない」と感じる人が増えています。原因は年収の額面だけでは説明できず、支出(生活費)の増え方まで含めて家計全体で見る必要があります。
本記事では、10年前と現在(2014年~2024年)を比べて、平均年収の変化を確認します。また、「男女」「正社員・正社員以外」といった属性によって伸び方に差があるのかも見ていきます。その上で、生活費(物価)がどう変わったのかを整理し、家計を守りながら将来に備える考え方を解説します。
結論:年収は増えているが、生活の余裕は増えにくい
国税庁の統計で見ると、この10年で平均年収(平均給与)は増えています。ただし、生活の余裕は年収の増減だけで決まるものではありません。物価が上がれば、年収が増えていても生活が楽になったと感じにくくなります。また、性別や雇用形態によって年収の伸び方に差がある点にも注意が必要です。
10年前と現在の平均年収はどれくらい変わった?
まずは賃金が上がっているかを、感覚ではなく平均データで確認しましょう。
国税庁「民間給与実態統計調査」によると、全給与所得者(1年を通じて勤務した給与所得者)の平均給与(年額)は、上記グラフのように推移しています。
このデータからわかる大きなポイントは2つです。
1つ目は、10年間で63万円増加していることです。2014年の平均年収は415万円、2024年は478万円で、+63万円(+15.2%)となっています。ただし年による上下があり、特に直近2024年は前年差+18万円と、春闘での高水準の賃上げや人手不足を背景に伸びが大きい年でした。
2つ目は、2019年〜2020年にかけて平均給与がいったん下がった後、回復していることです。この落ち込みは時期的に新型コロナの影響とみられ、2021年以降は持ち直しています。平均給与は基本給だけでなく賞与や残業代も含むため、景気や労働時間の変化で年ごとの増減が出やすい点にも注意が必要です。
もっとも、この+15.2%という伸び率は全体の平均値であり、誰にとっても同じように賃金が伸びたわけではありません。性別や雇用形態によって伸び方には明確な差が見られます。
※本記事で扱う平均年収は、税・社会保険料が差し引かれる前の「額面」です。
女性の平均年収は男性を上回るペース
2014年を100ポイントとした指数で見ると、2024年時点で男性が114.2ポイントであるのに対し、女性は122.4ポイントまで伸びており、その差は8.2ポイントです。2018年~2020年にかけては男女とも足踏みする局面がありましたが、2021年以降は女性の伸びが加速し、男性との差が広がっています。
ここで注意したいのは、これはあくまで「伸び率」の比較だという点です。年収の絶対額(金額そのもの)は、依然開きがある状態が続いています。
伸び率加速の背景には、企業側の制度対応も関係しています。2022年7月からは女性活躍推進法に基づき、常時雇用労働者301人以上の企業に「男女の賃金差異」や「女性管理職比率」の公表が義務付けられ、2026年4月からは対象が101人以上の企業まで拡大されました。情報開示を機に自社の人事体系を見直す企業が増えたことも、近年の女性の年収の伸びを後押ししている一因と考えられます。
また、女性のキャリア継続の状況も伸び率に影響しています。厚生労働省の調査によると、第一子出産後も働き続ける女性の割合(継続就業率)は、2015年~2019年で53.8%となっており、1985年~1989年の23.9%から2倍以上に上昇しました。
一方で、女性の就業率自体は年齢を問わず高まっているものの、正社員として働き続ける比率は30代以降に低下しやすいといった課題も残っています。また、総務省の「労働力調査(2024年)」によると、雇用者に占める非正規雇用の割合は男性が約22%であるのに対し、女性は約53%と大きな差があり、育児期の再就職で非正規雇用を選ばざるを得ない女性が多いことが、依然として年収差の一因になっていると考えられます。
正社員・正社員以外で見る年収の伸び率
雇用形態別に見ても、伸び方には明確な差があります。ここでも2014年を100ポイントとした指数で、2024年までの推移を比較します。雇用形態別では、正社員が2014年比114.0ポイントまで伸びているのに対し、正社員以外(契約社員・パート・アルバイトなど)は121.2ポイントまで伸びており、差は7.2ポイントです。特に2020年~2021年にかけて正社員以外の伸びが大きく跳ね上がっている点が目立ちます。
この急伸には、公的な制度変更が大きく関わっています。1つ目は最低賃金の引き上げです。厚生労働省によると、最低賃金(全国加重平均)は2014年度の780円から2024年度には1,055円まで上昇しており、この10年でおよそ35%の引き上げとなりました。特に2023年度以降は+43円、+51円、+66円と、引き上げ幅が3年連続で過去最大を更新しています。時給ベースで働く人が多い正社員以外の年収は、この最低賃金の上昇の影響をより強く受けやすい構造にあります。
2つ目は「同一労働同一賃金」ルールです。パートタイム・有期雇用労働法等に基づき、2020年4月(大企業)・2021年4月(中小企業)から順次適用が始まり、正社員と正社員以外との間の不合理な待遇差が禁止されました。この適用時期と、正社員以外の伸びが跳ね上がるタイミングが重なっています。
ただし、こちらも男女比較と同様に、伸び率の差がそのまま金額差の縮小を意味するわけではない点に注意が必要です。時給の底上げや同一労働同一賃金が進んだ一方で、正社員との年収の絶対額の差は依然として残っています。「平均年収が増えた」という数字だけでなく、自分や家族がどの区分に当てはまるかを踏まえて家計を見直すことが大切です。
10年前と現在の物価・生活費は何が上がった?
次に、生活費の中身を確認してみましょう。物価の代表的な指数が総務省統計局の消費者物価指数(CPI)ですが、CPIは総合指数だけでなく、食料品・エネルギー・家賃・教育など品目・類別ごとの指数も公表されています。ここではその中から生活実感への影響が大きい項目を取り上げ、2020年を100ポイントとした指数で、2014年と2024年を比較します。
10年前と現在を比べると、生活費は「一様に上がった」というより、上がった項目と、横ばい(あるいは下がった)項目が分かれるのが特徴です。特に目立つのは、日用品、電気代、ガス代、授業料の4つです。
日用品・電気代・ガス代は上昇している一方、授業料は低下しています。また、家賃は2014年101.0ポイント~2024年100.5ポイントと、指数上はほぼ横ばいです。
※指数(2020年=100):2020年の水準を100としたときの相対値。当章の「ポイント」は2014年から2024年の差(ポイント差)です。
これらの動きは、生活必需品ほど価格転嫁が起きやすいことに加え、エネルギー価格や為替、物流コストなど外部要因の影響を受けやすい点が背景として挙げられます。特に2021年以降は、資源価格の変動や円安の進行を受けて、エネルギーや日用品のような「逃げにくい支出」で家計負担が増えやすくなりました。ここからは品目別の指数の変化を見ていきましょう。
食品・日用品
指数で見ると、2014年~2024年にかけて食料は5.5ポイント、日用品は25.3ポイント上昇しており、購入頻度の高い支出ほど体感に直結しやすいことが分かります。
食品・日用品は購入頻度が高く、値上げが体感に直結します。数十円の上昇でも、週に何度も買えば月単位では大きな差になり、家計の圧迫感が強くなります。
この分野では内容量を減らす実質値上げも起きやすく、同じ予算でも必要量を満たせず追加購入が発生しやすくなります。結果として食費がじわじわ増えている原因が見えづらいのが厄介です。
食費や日用品費に差が出やすいのは買い方です。特売の使い方、プライベートブランドの選択、まとめ買いと在庫管理、買い物回数の削減など、行動の設計で支出を抑えやすい領域でもあります。家計簿を付けるなら、まず品目ではなく店舗・頻度で分けてみると改善点が見つかりやすくなります。
住居費(家賃・住宅ローン金利)
家賃は指数上、2014年~2024年で0.5ポイント低下(ほぼ横ばい)ですが、実際の負担感は地域差や住み替え、更新のタイミングで変わる点に注意が必要です。
家賃が指数上は横ばいに近い背景としては、住宅は契約更新まで価格が動きにくく、値上げが段階的になりやすい点が挙げられます。一方で実際の家賃負担は地域差が大きく、都市部の需給や住み替えタイミングで体感が変わりやすい点があります。
持ち家でも安心とは限りません。住宅ローンは金利が上がる局面で返済額が増え、特に変動金利の人は影響が表れやすくなります。返済額の上昇は、家計の防衛資金や教育費の積立を圧迫しやすいのが問題です。
エネルギー(電気・ガス)
エネルギーは2014年~2024年で、電気代が10.1ポイント、ガスが7.4ポイント上昇しています(電気代は2022年に一時的な上振れも見られました)。
電気・ガスは燃料(LNGなど)の国際価格や為替(円安)の影響を受けやすく、さらに制度(燃料費調整、補助金の有無など)によって請求額が変動しやすい費目です。短期間で上振れしやすいため、家計の「急にきつくなった」という感覚につながりやすい点が特徴です。
影響は家庭ごとに大きく異なります。冷暖房を多用する季節、在宅勤務の有無、オール電化かどうか、車の保有と走行距離などで負担が変わり、平均値が参考になりにくいのが特徴です。
対策は、我慢よりも仕組み化が効きます。電力会社や料金プランの見直し、時間帯別の使い方、断熱・省エネ家電の導入など、固定的に下げる手段を優先するとストレスが少なく継続できます。ガソリン代は、移動手段の置き換えやまとめ給油、ポイント・カードの最適化が効果的です。
教育・子育て
教育は指数全体では2014年~2024年で3.9ポイントの低下ですが、内訳では教材費が11.9ポイント上昇する一方、授業料は13.8ポイントと低下しており、家庭によって体感が分かれやすい領域です。
教材費は、「必要だと感じる支出水準」が上がりやすい領域です。習い事や学習塾、教材、デジタル端末など、周囲の環境に合わせようとすると支出が膨らみやすくなります。
授業料は、一部の無償化や支援制度がある一方で、対象外の費用も多く、家庭によって負担感が大きく分かれます。給食費、行事費、部活動関連、私立進学、受験費用などは積み上がりやすく、見込みより上振れしやすいのが現実です。
重要なのは「毎月の教育費」と「進学などの大型支出」を分けて考えることです。毎月の範囲で使う上限を決め、別枠で積立を作ると、家計が崩れにくくなります。教育費は削るか増やすかの二択ではなく、目的に合う配分に整える発想が有効です。
教育資金づくりの制度も気になる方は、こどもNISAの概要もチェックしておくと整理しやすくなります。こどもNISAとは?2027年開始予定の非課税制度を徹底解説
なぜ苦しくなったのか
賃金が伸びにくい一方で、生活必需品コストが上がりやすい構造が、家計の余力(貯蓄や余暇)を削ります。また、近年の税・社会保険料増加も家計が苦しく感じる要因の一つです。
家計が苦しくなるのは、個人の努力不足というより、伸びにくい収入と上がりやすい支出が同時に起きる構造があるからです。賃金は企業の収益や労働市場の影響を受け、急には増えにくい一方、生活必需品の価格は外部要因で上がりやすく、家計は受け身になりがちです。
さらに、税金と社会保険料は制度として一定の負担が組み込まれており、景気や物価による上振れがなくても毎月確実に差し引かれます。結果として、昇給があっても可処分所得の増加が小さくなり、物価上昇のインパクトを吸収しにくくなります。
この状況では、家計の余力は貯蓄から削られやすく、将来不安が増します。不安が増えると、消費を抑えて生活満足度も下がり、さらに「苦しい」という感覚が強まります。重要なのは、構造を理解した上でコントロールできる部分に集中し、再現性のある対策に落とすことです。
家計の見直しと収入を増やす選択肢
短期は支出の最適化で守り、中長期は収入増と資産形成を組み合わせると、インフレ下でも家計の安定度を高められます。
家計の立て直しは、節約だけでも収入アップだけでも不安定になりがちです。短期で確実に効くのは固定費の最適化で、ここで浮いた分を防衛資金や投資に回すと、次の一手が打てるようになります。
一方で、物価が上がる環境では、支出を削るだけでは限界が来ます。中長期では、スキルアップや転職、副業などで収入を増やす選択肢を持つことが重要です。特に、同じ時間で得られる収入を上げる方向に投資すると、生活の自由度が上がります。
そして最後に意識したいのが、現金だけで資産を抱えるリスクです。インフレは現金の購買力を静かに目減りさせるため、生活防衛資金を確保したうえで、長期の資産形成に取り組むと家計の耐久力が増します。有力なのは、長期・分散・積立を基本にした資産形成です。短期で増やす発想ではなく、時間を味方につけて将来の不安を減らす位置づけで考えると、失敗しにくくなります。インフレと資産防衛の基本をあらためて整理したい方は、インフレ対策とは?数字で見る物価上昇の実態と資産を守る基礎知識もあわせてご覧ください。
具体的な手段としては、新NISAとiDeCoが代表的です。新NISAは運用益が非課税になる制度で、長期の積立投資と相性が良いのが特徴です。iDeCoは老後資金づくりに特化していて、掛金が所得控除になるメリットがある一方、原則として途中で引き出しにくい制約があります。目的が「いつ使うお金か」によって向き不向きが分かれるため、「どちらが自分に合うか」を整理してから始めると迷いません。違いと選び方をまとめた解説も参考にしてみてください。NISAとiDeCoの違いを徹底解説!特徴・メリット・選び方を網羅
何から手を付ければいいか迷ったら、チェックリストで整理してみましょう。資産運用とは?まずやるべき6つのチェックリスト
まとめ
年収の増減だけで判断せず、男女や雇用形態による伸び方の違いも踏まえたうえで、収入の推移と支出、とりわけ物価上昇の影響が大きい費目を軸に現状を把握することが大切です。そのうえで固定費の見直し、生活防衛資金の確保、資産形成を組み合わせれば、家計の耐久力は着実に高まっていきます。
この10年の変化を一言で表すなら、額面の年収よりも、収入と生活費のバランスが厳しくなりやすい環境になった、ということです。昇給があっても、物価上昇で買える量が減れば、生活は苦しく感じます。女性や正社員以外の年収は伸び率で見ると男性・正社員を上回っていますが、これは賃金差異の公表義務化や最低賃金の引き上げ、同一労働同一賃金ルールといった制度面の後押しによるところが大きく、年収の絶対額の差が解消したわけではない点も、あわせて押さえておきたいところです。
やるべきことはシンプルです。まずは食費・住居費・エネルギーなど影響の大きい費目を点検し、次に通信費や保険といった固定費を見直して、毎月の余力をつくる。余力ができたら生活防衛資金を確保し、そのうえで新NISAやiDeCoを使った長期の資産形成に進む。年収という数字だけでなく、物価と実質的な購買力も含めて家計を捉えることが、これからの家計防衛の要になります。
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