亜州潮流 ベトナムのメコンデルタにおける塩害問題
2024.09.30 (月)
ベトナムのメコンデルタにおける塩害問題
ベトナムの南部にあるメコンデルタは同国最大の農業地域である。この地域は、ベトナムのコメの国内生産量の約5割、輸出量の約9割以上を占めている。この他にも、国内の水産の約6割、果物の約7割を養殖・生産している。そのためメコンデルタは、ベトナムの農業経済発展と食料安全保障問題において非常に重要な地域である。過去6,000年に渡りメコン川の沖積によってメコンデルタは範囲を拡大していき、2005年に沖積部が最大となった。2005年以降、この地域では海水の侵入による塩害が深刻化しており、危機的な状況に置かれている。
海水侵入の原因
ベトナムの水資源科学研究所が今年の3月に発表した研究結果によると、メコンデルタは、海水の侵入により農業・水産業だけで年間70兆ドン(4,200億円)以上の損害を被っている。ベトナム・メコン川委員会は、塩害の主な原因について以下の2つを挙げている。まず、気候変動によるメコン川下流域の雨不足である。降雨量不足から、流域諸国では、上流に近い小流域や支流で水の使用量が増加しており、下流の干ばつと水不足の状況を悪化させている。次にメコン川の水力発電のダムにおける貯水の影響である。中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの6か国を流れるメコン川の主流は、中国にある12基のダムに56%、ラオスにある2基のダムに32.7%が貯水されている。それによって、下流のメコンデルタでは水や堆積物の流入量が減少し、海水侵入の影響も加わって塩害が深刻している。現在上流の国では複数の水力発電プロジェクトが計画されており、2050年にかけて実施された場合、メコンデルタに流れ入る砂等の堆積物の量はピーク時の20分の1に激減する見通しだ。またダム以外にもメコン川の水を使うカンボジアのフナン・テチョ運河が今年年末に着工される予定で、メコンデルタにおける水不足と塩害の悪化につながる可能性がある。他方、当該地域では近年稲作や果樹、水産養殖等で水の需要が急増しており、塩害の影響を避けるために地下水がくみ上げられ、各地で地盤沈下が多発するなど別の問題も引き起こされている。
塩害を抑制する政府の対応
干ばつ、水不足、海水の侵入による塩害を抑制するために、ベトナム政府は塩害に強い作物の導入や水産養殖への転換など自然条件の変化へ適応する農業政策を推進している。同時に、塩水の逆流防止施設や貯水池の整備等の灌漑システムを強化している。実際、対策された地方では塩害を最小限に抑える効果を発揮している。政府は今後もインフラ建設を重点的に行うため、建設・土木資材業の企業業績は見通しが明るい。また日本企業を含むFDI誘致を通じて、メコンデルタにおいて加工食品事業への進出など農業の多角化や、新エネルギー産業の育成など持続可能な経済開発を目指している。
※写真はすべて筆者撮影
※「亜州潮流」は、アジア新興国のトレンドを解説したコラムです。投資の推奨を目的としたものではありません。
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