
China Market Eye 中国でスターバックスが値下げ、デフレ進行の兆し
2025.06.30 (月)




中国でスターバックスが値下げ、デフレ進行の兆し
上海市南京西路にあるスターバックスの店舗

米スターバックスの中国法人は6月9日から、主力のアイスドリンクの価格を平均5元(約100円、2割弱)引き下げると発表しました。ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)やミルクティ・アイスチェーンである蜜雪氷城(香港:2097、※当社取扱外)などの値下げ攻勢に耐えられず、激しい値引き競争を余儀なくされたと推察されたが、中国ではデフレが進行している象徴的な出来事として大きな反響を呼んでいます。
コーヒーショップだけでなく、飲食店やレストランでも格安か激安店に消費者が集まる傾向がこの1~2年で顕著となっています。好調な旅行サービス業でも国内旅行者数はコロナ禍前を20%以上上回って過去最高を更新しているものの、1人当たりの旅行支出単価はいまだに2019年の水準には届いていません。特に高級ホテルほど稼働率が低く、宿泊料金もコロナ禍前を大きく下回っています。消費者の財布のひもが固くなる中、日本のデフレ時代を彷彿させるように安くて高コスパのモノとサービスが支持された格好となっています。
中国の個人預金残高

中国の金投資需要(四半期)

足元では中国の消費者物価指数(CPI)は小幅ながら4か月連続で前年比マイナスとなっており、生産者物価指数(PPI)はなんと32か月連続でマイナス圏に沈んでいます。コアCPIがプラス圏を維持しているため、当局は中国がデフレに陥っていることを認めず、生産者物価についてもサイクル的なものであると主張しています。
しかし、中国の10年国債利回りは1.6%と記録的な水準にまで低下し続けています。また、個人の預金残高は前年同期比10%のペースで伸びており、そのうち定期預金の比率も高まる一方、住宅ローンを前倒し返済するなど借金を減らそうとする家計は大幅に増えています。さらに、資産価格が低迷し金利安も進むなかで資産防衛のための金投資需要も急増しています。こうしたことから「失われた30年」と呼ばれる長期停滞を経験した日本の二の舞いを懸念する声が中国内外で強まる一方です。
消費者が節約志向を強めている背景にはまず、不動産バブル崩壊で鉄鋼や建材など主要オールドエコノミー産業は供給過剰に陥っており、企業の業績不振は雇用不安や就職難、賃下げを招いています。次に不動産価格や株価の下落は逆資産効果だけでなく、土地売却収入減で地方政府の緊縮財政を生んでいます。さらに米国による対中関税の引上げは需給ギャップを一層悪化させ中国のデフレ圧力を強めているのです。
中国の中古住宅価格指数

特にここ数年賃金が急速に伸びていた都市部の中間層の多くは収入減や債務減らし(家計のバランスシート調整)に直面し、消費行動のグレードダウンを余儀なくされました。こうした消費者はスターバックスや高級ホテル、ブランド店にとって主要顧客であるだけに、様々な業界には販売戦略の見直しを迫られているのです。
言うまでもなく、家計の節約志向は実体経済全体に費用削減をもたらし、物価下落をさらに加速させるデフレスパイラルのリスクを高めています。これを回避するために、今年の中国政府活動報告の中でインフレ目標が3%以下から2%前後に引き下げられ、デフレ構造の打破が政策の最優先課題として掲げられています。激しい米中関税合戦が繰り広げられる中、今のところ財政拡大策の効果は十分に発揮されていない状況です。
ただ、中国の1人当たりGDPがまだ先進国の3分の1以下に止まり、地域の格差により地方のキャッチアップ余地が大きい上、バランスシート調整(債務削減)を強いられているのは一部の業種と家計に過ぎません。今後、積極財政は時間が経つにつれて効果を発揮し、供給サイド改革による過剰生産能力の削減や福祉支出の拡充も生産者物価の下落や消費者マインドの低迷を改善するものと思われます。個人消費の自律的な回復を実現するためには、社会保障や子育て支援の充実など、将来不安の解消につながる対策に本腰を入れる必要性があるほか、逆資産効果の悪影響を早急に払拭させることも不可欠です。今年下期に外需不安を相殺するためにも大規模な住宅在庫買い取りを実施し、市場需給の均衡化を早期に実現することにより不動産価格を安定化させることもすでに政策オプションの俎上に上っていると考えられます。
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