
自己株式とは?基礎から取得・消却のメリット・デメリットを紹介
2025.06.27 (金)




自己株式は企業が自社で発行した株式を会社自体が直接保有する仕組みで、柔軟な資本政策の手段として注目されています。企業が自己株式を取得・保有・消却することにより、株価対策や企業価値向上、さらには敵対的買収への対抗など、さまざまなメリットを期待できる一方で、資金流出や自己資本の低下といったリスクを伴う面も見逃せません。
本記事では、自己株式の基礎から取得・消却のプロセス、そしてメリット・デメリットや注意点に至るまでを多角的にご紹介します。
自己株式とは
自己株式とは、企業が自ら発行した株式を再び取得して直接保有している状態を指します。
旧商法の時代には、企業が資本を恣意的に操作する可能性や既存株主との利害対立への懸念があったため原則禁止とされており、認められるケースが限定的でした。しかし時代とともに企業の資本政策に柔軟性を持たせる必要性が高まったため、法改正によって一定の手続や財源規制のもとで自己株式を取得し、保有できるようになりました。
自己株式の取得

自己株式の取得とは、企業が発行済みの株式を市場や特定株主から買い取る行為です。配当以外の株主還元策や資本効率の向上、株価対策などさまざまな目的で行われます。取得後は既存株主の持ち分比率が相対的に上昇するなど、株主構成や経営権に影響を与えることも少なくありません。企業は法規制を遵守するとともに、取得の目的と手段を明確にし、既存株主の利益を損なわないよう配慮することが大切です。
自己株式の取得方法としては、市場買付や株式公開買付(TOB)、特定株主との相対取引などが挙げられます。買付方法によっては、市場買付は株価に影響を与えやすく、TOBは買付価格や期間を指定できるメリットがあります。特定株主からの取得では、株主間の合意形成が重要です。取得方法はその時点の株価動向に大きく左右されることがあり、企業はタイミングの見極めを慎重に行う必要があります。
自己株式の消却・処分

自己株式を保有しているだけでは何も起こりませんが、企業は発行済株式総数を減らすために自己株式を“消却”または市場などで再度売却する“処分”を行うことがあります。
自己株式の処分は、再び市場へ売却するほか特定の取引先や従業員持株会などに譲渡する方法もあり、企業は多様な活用手段を検討できます。処分時には市場価格との兼ね合いで売却価格を設定しなければならず、安易に売り急ぐと企業価値を損なう恐れがあります。
さらに新たに取得する側の株主構成が変化するため、経営権に影響するリスクも存在します。慎重な検討と手続きが必要であり、法令や規則に違反しないよう、開示や報告などのコンプライアンス対応も怠らないようにしなければなりません。
自己株式が株価に与える影響
先述の通り、自己株式の取得や消却は株式数や指標に直接関与するため、株価変動にも影響します。
需給バランスへの作用
流通株式数が減少すると市場で売買が成立しやすくなり、需要が高まると株価が上昇しやすい環境が生まれます。投資家は株価上昇の期待から買いを強める可能性があり、短期的には株価が上向く要因になることが多いです。また企業が頻繁に自己株式を買い取ることで、常に低流通状態が保持され、需給ギャップによる株価上昇を見込むことも可能です。
一方で、企業本来の収益力が乏しい場合、自己株式の買い支えだけでは長期的な市場評価を支えることが難しく、むしろ資金を取り崩した分のダメージが顕在化するリスクもあります。
投資家評価の変化
発行済株式総数が減少すると、EPS(1株当たり利益)やROE(自己資本利益率)などの指標が改善されるケースがあります。これらの指標は投資家が企業の収益性を判断するうえで重要な指標であり、改善が見られると株価にプラスの影響を与えやすいです。
ただ指標の向上だけでなく、実態として企業の収益力や成長性など業績が伴っているかを投資家は注目しています。財務指標の底上げが一時的なものでないことを示し、継続的な利益創出を明確にしてこそ、長期にわたる高い評価を得ることができるでしょう。
自己株式を取得・消却するメリット
自己株式の取得や消却には企業や株主にとって多くのメリットをもたらす面、資本政策の一環として慎重な検討が必要です。
株主還元策としての効果
自己株式の取得は、配当に加えてもう一つの株主還元策として機能します。企業が株主に対して株式を買い取る姿勢を示すことは直接的に株価を支える効果をもたらすため、株主還元策として市場からの評価も得やすくなります。特に株価が低迷している局面で、自己株式を積極的に買い付ける企業は、今後の業績回復や将来の株価上昇に自信を持っていると投資家から受け止められやすくもあります。こうした積極策は市場で好感される場合が多く、企業イメージの向上にも寄与します。
また、消却を行うことでEPSやROEを改善できるため、基本的な企業指標の向上が期待できます。これらの指標改善は短期的な株価上昇だけでなく、長期的な評価としてもプラスに働く可能性があります。
敵対的買収の防止と企業防衛
自己株式を一定数保有していると、外部からの買収提案に際して発行済株式総数をコントロールしやすくなるため、敵対的買収を阻止する防御策として機能します。買収が公表された際に短期間で自社株を確保できる可能性を高めることで、経営陣がより安定して事業展開を行う環境を保ちやすくなります。
ただし、あくまで防衛手段の一つであり、長期的に見れば経営の透明性や収益力強化など総合的な企業価値向上に取り組むことが最も重要です。企業防衛を目的として自己株式を乱用すると、市場や株主から不信感を招く恐れもあるため、その活用にはバランスが求められます。
自己株式を取得・消却するデメリット
企業が自己株式取得や消却はメリットがある一方で、デメリットも存在します。
自己資本比率低下や資金流出リスク
自己株式の取得には大きな資金が必要となるため、資金が企業から外部へ流出します。その分バランスシート上の負債比率の変動や自己資本比率の低下につながる可能性もあります。特に大規模な自己株式取得では一気に自己資本が減少し、財務体質が弱体化するリスクを伴います。
自己資本比率が低下すると、金融機関や投資家に対してリスク増加と判断され、信用コストの上昇につながることも考えられます。短期的には株主還元としてプラスの要素が強調されますが、長期的な財政健全性を同時に見据えることが重要です。
将来的な成長投資への影響
株式取得に多額の資金を投じると、その後のM&Aや新規事業開発、設備投資など、企業が将来的に必要となる成長投資に回せる予算を圧迫することがあります。これにより競争力が低下し、潜在的な機会を逃す可能性が高まるでしょう。
また、投資家から見た場合も、自己株式取得に偏った資本政策は「短期的な株価対策」に注力しているように映る場合があります。将来的な価値創造への取り組みが不十分と判断されると、株主離れを誘発する一因にもなり得るため、取得の判断には慎重さが求められます。

自己株式と自社株の違いとは
自己株式と自社株は同じ“自社”にかかわる株式でも、その所有者や保有目的によって明確に区別されます。

「自己株式」は企業が保有する自社の株式で、企業戦略や資本政策と直接に結びつく存在であり、それに対する法規制や会計・税務上の取扱いが厳密に定められています。
一方で役員や従業員、外部の投資家が所有する株式は「自社株」と呼ばれます。あくまで個人や機関投資家が運用の一環として所有するものであり、売買や配当、譲渡といった一般的な株式取引の対象となるため保有者は議決権や配当の受け取りなどの権利を持ちます。自社株を保有することで、業績向上に対するインセンティブが高まるメリットもありますが、株価下落局面では個人資産へのダメージが大きく、不安定要素となる場合もあるため、過度な偏りがないよう注意が必要です。
自己株式における注意点
自己株式の取得や処分を行うには、法規制や社内ルールへの順守を念頭に置いて慎重に実施しなければなりません。
自己株式の取得や消却を進めるうえでは、まず会社法が定める範囲内の剰余金を財源とする必要があります。また、いきなり大規模な取得を行うと、既存株主や市場に与える影響が大きくなるため、計画的な実行が望ましいです。
インサイダー取引規制や金融商品取引法上の適時開示義務なども、自己株式を扱ううえでは避けて通れない問題です。誤った手続きや情報漏洩が発生すると、企業が社会的な信用を失うリスクに直結するため、適切な管理体制を整えることが不可欠となります。
まとめ
自己株式の取得や消却は、企業価値向上や買収防衛など多くのメリットをもたらしますが、資金面・法規制面でのリスクを理解した上で取り組むことが重要です。
企業が自己株式を取得する背景には、株主還元や資本効率の向上、さらには経営権防衛といった多様な目的があります。一方で、自己株式の購入に伴う資金流出や財務体質の悪化、将来的な成長投資への影響など、慎重に考慮すべきデメリットも見逃せません。
財源規制やインサイダー取引規制といった法令遵守に加え、経営戦略上の観点からもバランスのとれた判断が求められます。自己株式を有効に活用するためには、関連する会計・税務や法的手続きを正しく理解し、企業価値の持続的な向上と組み合わせることが肝要と言えるでしょう。
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