コリアインサイト 韓国鉄鋼産業、生存を超えて飛躍へ
2026.09.30 (水)
足元で韓国鉄鋼業界が直面している現実は決して平坦ではありません。過去の量的な成長方程式を踏襲するには、世界的な産業構造が根本から大きく揺らいでいるためです。
現在、世界の鉄鋼市場は慢性的な「供給過剰(Overcapacity)」の泥沼に陥っています。経済協力開発機構(OECD)によると、2025年における世界の粗鋼生産能力は約24.5億トンに達したものの、その需要は約18.0億トンにとどまり供給過剰規模は6.4億トンにものぼります。さらに2028年までに約1.4億トンの設備が増設される見込みで、過剰規模は過去のピークに迫る約7.4億トンにまで拡大する見通しです。
鉄鋼の世界生産の過半数(2025年で約52%)を占める中国は不動産不況により自国の余剰鉄鋼を海外へ流出、米国は従来の割当枠廃止および50%の関税賦課を行い、欧州も関税割当(TRQ)超過分への50%関税および炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則を行うなど、各国が自国産業を守るため保護貿易の壁を高く築いています。さらに韓国は高炉・転炉生産の比率が約70%を占めており、莫大な脱炭素転換コストを抱えているため、汎用鋼材を大量生産する従来の手法のみでは韓国を代表する鉄鋼大手3社の1.2%前後に低下した投下資本利益率(ROIC)を回復させることは極めて困難な状況です。
そのため韓国を代表する鉄鋼メーカーは、全く新しい付加価値を生み出す「第2の高炉」を稼働させる準備を着実に進めています。その核心戦略は「本業における強固なキャッシュ防衛」と「高収益な新成長産業への資本再配置」という二本柱です。
足元を固める本業:不当廉売の防御と高付加価値鋼材へのシフト
短期的にみると韓国の鉄鋼業界は業績の底入れを果たし、下値を切り上げる回復局面に入っています。2025年9月に韓国貿易委員会が中国および日本産の熱延鋼板に対して28.2~33.4%水準のアンチダンピング(AD)暫定関税を決定したことや、最低輸入価格を義務付ける価格約束制度(MIP)が導入されたことで、低価格品の流入に歯止めがかかりました。実際、年初に1トン当たり80万ウォン台だった現代製鉄(韓国:004020)の国内向け熱延流通価格は、最高98万ウォン(20%以上増)まで反発しました。ここに下半期の原材料価格(鉄鉱石95ドル/トン、原料炭260ドル/トン水準)の軟化・安定化が加わり、製品価格と原料費の差額である「高炉スプレッド(ロールマージン)」も、上半期比で1トン当たり5万ウォン拡大した50万ウォン台へ改善する見通しです。
ただし、これを中長期的な大相場の幕開けになると過信することはできません。2025年に韓国の鉄鋼輸出の20%(約590万トン)を占めていた主要市場のASEAN地域においても自給率を高めており、現地生産能力は2025~2030年に年平均8.5%ペースで急拡大すると予測されます。その結果、国内鉄鋼各社が選択したのは「高付加価値製品への構造転換」です。AIコンピューティング需要の拡大に伴い、2035年までに韓国国内だけで累計396万トンの新規需要が見込まれるデータセンターや超高圧変圧器向けの高級電磁鋼板、洋上風力発電用の厚板など、参入障壁の高い製品群へポートフォリオを移行しています。本業が担う役割は、もはや無理な規模拡大ではなく、年間数兆ウォンの安定したキャッシュカウ(Cash Cow)を生み出し、新事業を力強く支える原資となることです。
成長の上限を押し上げる新事業:リチウムで飛躍するPOSCO
本業で着実に蓄積された資金は、今まさに未来産業の根幹を支える戦略素材へと投じられています。
鉄鋼業界最大手であるPOSCOホールディングス(韓国:005490)は、鉄鋼・エネルギー・戦略資源からなる「トリプルコア(Triple-Core)」戦略を掲げており、2028年までにリチウム事業へ単独で5.5兆ウォン(自己資本の8.5%)を投資する計画です。電力網の安定化に不可欠なエネルギー貯蔵システム(ESS)向けバッテリーの需要が年平均30%以上急伸する中、同社はアルゼンチンのオンブレ・ムエルト塩湖第1工場のランプアップを通じ、2026年第2四半期に四半期ベースでの黒字化を達成しました。稼働率が95%に達すれば、1トン当たりの直接製造原価(C1)は5,500ドル水準まで下がると予測されるため、リチウム価格が1トン当たり2万ドルの低水準にとどまったとしても、営業利益率50%を維持できる強固なコスト構造を確立できる見込みです。さらにオンブレ・ムエルト塩湖での生産量が年5万トン体制となる2030年基準において、POSCOのリチウム事業価値は8兆ウォンに達すると試算されています。
利益を生み出す構造は調い、今こそ「実行」の段階へ
2026年8月31日終値時点における12ヶ月先行株価純資産倍率(PBR)はPOSCOホールディングスが0.4倍、現代製鉄が0.2倍水準と、歴史的な最安値圏に放置されています。これは市場が伝統鉄鋼業の停滞リスクのみを株価に織り込んでいるためです。しかしその実態は、本業が高付加価値品シフトと通商規制によって収益の下値を強固に支え、その基盤の上で芽吹いたリチウムや特殊合金が投下資本利益率を押し上げ、企業価値の上限を切り開く立体的な成長構造が既に完成しているということです。
新たな高炉を動かすための生産設備とビジネスモデルは整いました。今後に求められるのは、揺るぎない「実行力」です。すでに計画通りの歩留まりを達成し、グローバル顧客の品質認証を着実に獲得しながら、実際の数字として約束を果たしていくフェーズに入っています。重厚長大型の製造業を脱却し、世界的な先端素材企業へと変貌を遂げつつある韓国鉄鋼各社の「第2の高炉」に、今こそ注目する価値があります。
※本記事の予想については有進投資証券が作成したものです。
ご留意事項
免責事項
本資料は証券投資の参考となる情報の提供を目的としたものです。投資に関する最終決定は、お客様ご自身による判断でお決めください。本資料は企業取材等に基づき作成していますが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。結論は作成時点での執筆者による予測・判断の集約であり、その後の状況変化に応じて予告なく変更することがあります。このレポートの権利は弊社に帰属しており、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようにお願いいたします。


