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ザ 語源 第26回 「不動産」の名付け親

2023.09.08 (金)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第26回 「不動産」の名付け親

「不動産」の名付け親

9月23日は「不動産の日」です。秋は不動産取引が多くなることと、「2(ふ)10(どう)3(さん)」の語呂合わせから、昭和59年(1984年)に全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)によって定められました。

「不動産」とはその字が示す通り「動かない、または動かせないもの」を表します。民法では「不動産」を「土地およびその定着物」と定義しています。今回は「不動産」を日本以外の欧米各国ではどのように言うか、また日本ではなぜ「不動産」というのか、その由来を解説します。

欧米各国における「不動産」の訳語は欧州大陸系、イギリス、アメリカの3種類に大別されます。例えばフランスは「immobilier:イモビリエ」、ドイツでは「immobilie:イモビリア」、イギリスでは「property:プロパティ」もしくは「immovable property:イムーバブル・プロパティ」といいます。同じ英語圏ながらアメリカでは「real estate:リアルエステート」と表記することが多いようです※。
(※参考 各国の不動産会社のHPを参考に「不動産」を何と言うか分類したもの)

「不動産」を欧米各国では何と言うか フランス語はイモビリエ、ドイツ語はイモビリア、イタリア語はイモビリアーレ、ポルトガル語はイモビリアーリャ、これらの意味や語源は①固定化された②動かせない③不動のである。イギリス英語ではプロパティやイムーバブルプロパティといい、意味は①固定の物②所有物③動かせない所有物であり、アメリカ英語ではリアルエステートといい、意味は土地と財産である。

欧州大陸系諸国であるフランス、ドイツ、イタリアなどで「不動産」を「immobili~」と表記しますが、これは同じ印欧語系の英語である「immovable:イムーバブル」と同じ語源となります。「immovable」は否定的な意味を表す接頭語「in」と「可動」という意味の「movable:ムーバブル」から成り立っており、「動かせない」「固定化された」、つまり「不動産」につながります。土地とその上にある構造物(建物)は不動の産物だからです。

ちなみに「immovable」の対義語となる「movable」は「mobile phone:モバイルフォン(携帯電話)」や「movie:映画」、「automobile:自動車」と同じ「move:動く」が語源です。

immovableは動かせない、propertyは所有物ということを他の人の家(不動産)を引いても動かないという絵で示している。

欧州大陸系とは異なり、イギリスにおける「不動産」の訳語は「property:プロパティ」です。

「property:プロパティ」は「不動産」に限らず「所有物」という意味があります。様々な企業の決算書の「asset:アセット(資産)」の部分を見ると「不動産」を含む企業が所有する有形の(実体がある)固定資産に「property」が使われています。そのため「動産」と「不動産」を明確にすべく、「immovable property:イムーバブル プロパティ(不動の所有物)」と記されることもあるようです。パソコンで作成したファイルの「属性」にも「property:プロパティ」と記されています

所有物という意味のpropertyの成り立ちが記されている。(pro+perで固有の、proper+tyで所有物)

「property」は「proper:プロパー(形容詞)」と、接尾辞「ty」から成り立つ言葉です。「proper:プロパー」は「正式な」、「適切な」、「ちゃんとした」などの意味がある形容詞です。カタカナ英語で「生え抜き社員」、「正社員」としても使われています。「proper:プロパー」は「per(個人)」と「pro(にとっての)」が語源で、接尾辞の「ty」と合わせ「固有のもの」、つまり「所有物」になります。

冒頭にも少し触れたように同じ英語圏でも「不動産」はイギリスでは主に「property:プロパティ」、アメリカでは主に「real estate:リアルエステート」もしくは単に「estate」というように2つの国で表記が異なります。ちなみに日本の不動産会社は三菱地所なら「Mitsubishi Estate」です。

それでは次に「real estate:リアルエステート」の「estate」の語源を見てみましょう。「estate」は古代欧州のラテン語「sto:立つ」、またそこから派生した「立った場所」や「状態」という意味の「status:スタトゥス」が語源と見られています。「sto」と同じ語源をもつ単語として「status:立場、地位(ステータス)」、国や状態という意味の「state:ステート」があります。欧州中世から近世にかけ「status:スタトゥス」は貴族が所有する「財産」や「広大な所有地」を表す用語となりました。

stoからstatus、estateへの派生の流れが記されている

「real estate」の「real」については「実体のある」、「実在の」などが思い浮かびますが、17世紀頃より「real」は「財産」や「不動産」を意味する用語として使われ始めています。不動産業者は英語で一般的に「real estate agent(リアルエステートエージェント)」ですが、全米不動産協会に登録された不動産業者は「realtor:リアルター」といいます。「real」自体に「財産」や「不動産」という意味があることが由来であると思います。

同じ英語圏でもイギリスで「property」、アメリカで「real estate」と「不動産」の表現が異なることについてははっきりした理由が見つかっていません。イギリスで「estate」というと、貴族が領有する「広大な土地」という意味が強いことに対し、アメリカは元々イギリスやフランスの植民地が独立した若い国家なので広大なフロンティアを入植者が開拓しそれを「私有地」としたので「不動産」のことを「estate」というようになったのではないかと推察しています。

ところで不動産業界は通常「水曜日」が定休日です。「水曜日」を定休日としているのは、契約が「水」に流れることを回避する、つまり縁起を担ぐためというのが定説です。

一方で縁起を重んじる不動産業界であるにもかかわらず「不動産」という言葉の頭が縁起の良くない「不」という字であることに筆者は違和感を持っておりました。そこで「不動産」という言葉の由来を調べてみると、法学者、箕作麟祥(みつくりりんしょう)によるフランス語の訳語であることが分かりました。明治新政府が法整備の一環として当時模範としていたフランス民法典に記載されている「immobilier:イモビリエ」、つまり「動かせないもの」を直訳したものが「不動産」だったのです。

明治新政府にとって近代的な法律の制定は急務でした。当時の日本は欧米列強に不平等条約を押し付けられており領事裁判権や関税自主権を握られていました。これらの解消・打開のためには近代的な法律が必要だったのです。欧米のような強大な経済力は資源権益や工業力、科学技術力など「ハード面」もさることながら、教育や国会、司法制度など「ソフト面」の両輪によって成り立つと考えます。個人の財産権(property right:プロパティライト)がしっかり法律で定められた上で自由闊達な事業活動が展開され、ひいては経済力の発展・国力増強につながるのです。

G.E.ボアソナードは日本近代法の父、箕作麟祥は日本近代法学の祖、江藤新平は初代司法卿、それそれの似顔絵

法律編纂は明治新政府の政治家(後の初代司法卿:現在の法務大臣)、江藤新平の主導により開始されました。江藤新平は明治3年(1870年)、箕作麟祥にフランス民法典の翻訳を開始させました。その際、誤訳も恐れず速訳を命じたとされています。これが「不動産」という訳語の誕生となりました。

翻訳作業や国内法の整備は難航し、明治政府はフランスの著名な法学者であるボアソナードを招聘し、箕作麟祥らと共に法典の編纂を急がせました。その後、紆余曲折を経て明治22年(1889年)に大日本帝国憲法が発布され翌年施行となりました。宿願であった欧米列強国との不平等条約の改正に終止符が打たれたのは明治44年(1911年)でした。残念ながらその年までに江藤新平、箕作麟祥、ボアソナードはいずれも世を去っていました。

「不動産」は近代日本の法律制定に尽力した偉人達から生まれた言葉だったのです。

※本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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