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投資のコンシェルジュ 第10回 世界は気候変動抑制とインフレ・地政学的リスクの低減へ、脱炭素を急ぐ(後編)

2022.08.19 (金)

アイザワ証券 金融商品部

河西 幸弘

投資のコンシェルジュ 第10回 世界は気候変動抑制とインフレ・地政学的リスクの低減へ、脱炭素を急ぐ(後編)

「温暖化」と「地政学・インフレ」リスク常態化で「脱炭素」の投資機会が顕在化

当初想定を上回る、ロシア進軍による経済的損失

20222月のロシア進軍から5か月が経過し、経済規模で世界の2%程度のロシアと同0.2%のウクライナの紛争で当初は小規模とみられた世界経済への影響(損失)は、原油など資源、小麦など穀物の高騰と物価高を巻き散らして肥大化。

主要国の物価上昇(インフレ)率は1980年初頭のオイルショック時と同等、米国で9.1%(20226月分)、欧州で統計以来の8.1%(同5月分)まで上昇。その「商品高」は企業・消費者にとりコスト増を引き起こし、消費減速と各国の大幅な政策金利の引き上げ等による景気減速の懸念を強めて金融市場に巨額損失を与えます。

例えば、世界株指数は、ロシア進軍だけの要因ではありませんが、2月22日から6月17日安値まで17%下落し時価総額は10.4兆ドル(約1,386兆円)減少。一方で、世界の資源・農産物の購入側のコスト増は、コロナ前2019年比84%(5.2兆ドル≒700兆円)増の11.4兆ドルとの試算があります。

「温暖化」に起因する自然災害の拡大が常態化

そして、この夏、日本でも連日報じられる「線状降水帯」など温暖化に起因する大雨・洪水被害、一方で、熱波と少雨のドイツ、ライン川の水位が7月は10年ぶり低水準で水上運航に支障。世界の平均気温の上昇「温暖化」による自然災害等による経済的な損失は、1998年~2017年で22500億ドル(約300兆円)とそれ以前の20年比で150%増加。自然災害全体の損失29,080億ドル(約385兆円)の約8割に達し(国連による)、2030年までに、暑さだけで追加・約250兆円の経済損失が想定されています(国際労働機関・2019年資料)。また、自然災害の他、生態系の変化による原材料価格高騰も経済へ打撃を与えます。

問題解決へ巨額資金が本格的に動き出す、今こそ、関連企業への「投資好機」

上記の様に、2022年、「脱炭素」は、これまでの「温暖化」による自然災害・生態系変化に対してのみならず、「脱ロシア」による地政学・インフレによる「経済的損失」の回避の意が加わり、一層の急務として再浮上。

経済的損失の拡大は、解決へのインセンティブの大きさであり、資金規模は増大。難題解決へ巨額資金は各国政策を通じ動き出し、「脱炭素」関連ビジネスへ流入、関連企業の業績・株価には追い風となります。

難路だが、「脱炭素」へ各国は政策の前倒しを表明

▷「国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、20224月、世界の温暖化ガス排出量を2025年に減少に転じさせ、2030年に半減させる為の必要投資額を最大30兆ドル(約4,000兆円)と試算。500兆円/年は、現状(約170兆円/年)の約3倍、かつ巨額であり、各国の政策はそれに歩調を合わせるように前倒しがみられます。

▷脱ロシアを急ぐのはドイツ。天然ガスでロシア依存度が約4割と深刻で、2024年に1割までの削減を打ち出しています。そして、同依存1割強のEUは、全体で、2027年を目処に依存を断つべく、当初は米国等を代替輸入先として、やはり、天然ガス、石炭など化石燃料を使用、一方で、20225月、温暖化ガス排出は2030年に1990年比55%削減する目標を堅持(20217月引き上げ)。2027年までに2100億ユーロ(約29兆円)を投じ、2030年に再生可能エネルギー比率をエネルギー消費全体の45%への引き上げを目指します。

▷20226月、ドイツを議長国とする主要7か国(G7首脳会議では、2022年末までにパリ協定履行を目指す「気候クラブ」設立を合意。韓国や新興国へ参加国拡大を目指し、2050年カーボン・ニュートラル(温暖化ガスの排出抑制と吸収により実質排出ゼロ)へ陣営を固めます。

米国は、20228月、気候変動対策を盛り込んだ「インフレ抑制法案」が上院に続き12日に下院で可決、大統領の署名を以て成立の運び。再生可能エネルギーへの移行加速へ、同エネルギーの国内供給網の構築、EVなどエコカー普及へ購入時の税額控除などへ4,300億ドル(約57兆円)の財政投入へ乗り出します。世界第2位の温暖化ガス排出国であり、トランプ政権により202011月にはパリ協定を一時離脱(20212月バイデン政権により復帰)した同国の積極姿勢は、各国の「脱炭素」政策前倒しの誘因になることが期待されます。

▷そして、日本・岸田政権は、6月に閣議決定した「骨太の方針」の中で、「脱炭素・エネルギー政策」として、「10年間で官民による150兆円規模のグリーン・トランスフォーメーション(GX投資」を打ち出し、再生エネルギー及び原子力の活用を打ち出しています。

※企業が使用するエネルギーを再生可能エネルギーなどへ転換し脱炭素化を図る。

「脱炭素」へ投資で貢献 

「温暖化」に加え「地政学・インフレ」のリスクが常態化し、「脱炭素」へのインセンティブと伴に対策費への各国予算は拡大し、今後、世界の投資が「脱炭素」へ向かい、関連企業の株価上昇の可能性は高いとみています。我々個人の資金でも、それら企業への投資=応援を通じてサスティナブルな世界への貢献とリターンの獲得が期待できると考えます

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ライター

河西 幸弘

アイザワ証券 金融商品部

河西 幸弘

国内大手の証券・保険会社において、リテール、事業法人、機関投資家等への金融商品の営業を、大手運用会社では15年に渡りRM(リレーション・マネジメント)等を経験。その間、証券アナリスト(CMA)、日本FP協会(CFP)、1級FP技能士等の資格を取得。そして、2021年4月、アイザワ証券入社。金融商品部において投資信託や債券等のストラテジックな商品提案を推進する一方、難解な金融市場の「分かりやすい」解説に挑む。

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