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China Market Eye 転換期を迎える中国の不動産市場

2021.09.21 (火)

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

China Market Eye 転換期を迎える中国の不動産市場

2020年の中国新築住宅販売額は、前年比10.8%増の15.4兆元(約260兆円、販売戸数は約1400万戸)と20年前のほぼ70倍となりました。

不動産市場の拡大は今までの中国経済の投資主導型成長を支える一方で、実体経済や金融市場に不安定さを及ぼすようになりました。不動産価格の変動によって金融緩和と引締めが繰り返される中国不動産市場の「3年サイクル」は景気循環とも重なりました。

2016年頃に転換期を迎えた中国不動産市場

中国の都市化率が60%を超えポスト工業化を迎えつつある昨今、2016年頃から中国当局の不動産対策は「住房不炒」(住宅は投機の対象であってはならない)、「因城施策」(地域ごとの柔軟な対応)に転換し、不動産デベロッパーに負債率や返済能力の要求基準を設けて融資条件を厳格化しました。同時に、住宅在庫の状況に応じて土地供給を調節するなど、不動産市場の健全化を図ってきました。

こうした中国当局の取り組みが奏功し、「レバレッジと回転を利かせて土地を囲い込み、値上がり益を貪る」という過去の経営手法は通用しなくなっています。不動産価格もここ数年総じて安定的に推移し、かつて見られたような全国的なバブル懸念は過去のものになりました。

2021年に入り経済正常化に伴って、中国当局はデレバレッジ(債務削減)や不動産依存脱却に向けて不動産抑制姿勢を鮮明にしています。住宅ローン金利の上昇に伴い融資残高(住宅ローンと開発融資の合計)の伸びは初めて10%を下回り、名目GDP成長率を大きく下回るようになりました。

また、中国当局は長期的な政策目標でもある国民の格差縮小や負担軽減、出生率の向上を図るために、不動産引締め措置の対象を不動産開発から仲介や賃貸、関連サービスに拡大したほか、多くの政府機関が不動産市場の健全化に責任を負うことに注目が集まっています。

デレバレッジがデベロッパーに直撃

新築販売や新規着工が7月から前年割れとなるなど、中国の不動産市場はレバレッジ率を下げながら調整局面に突入しました。

不動産成約販売の伸び悩みは財務体質が脆弱な不動産企業を直撃し、その一部は資金繰り難から社債デフォルトを頻発させて経営危機に瀕しています。株価が年初から70%も下落した恒大集団(香港:3333)はその代表です。

同社は負債積み上げによる強気な業務拡大や事業の多角化の裏目が出て、6月末時点で5700億元に上る有利子負債を抱えています。保有株の売却やリストラで債務削減に取り組んだものの、厳しい不動産抑制措置や同社に対する懸念の高まりは住宅購入者に不信感を与えました。その結果、同社の不動産成約販売金額は予想以上に落ち込み、資金繰りの悪化が加速しています。

しかし、同社が経営破綻に追い込まれ、中国全体に深刻な不動産調整や金融リスクを起す可能性は低いと考えます。

なぜなら、過去に何度もあったように、不動産市場の調整は中国当局の抑制策によってもたらされてきました。したがって中国当局のコントロール下にある上に、不動産に端を発した金融リスクの防止は政策の優先課題として重要視されており、同社を含めた市場全体の現在の状況は当局の厳しい監視下にあると考えるからです。

また、不動産引締めはすでに4年以上続いており、中国の不動産市場は全体としてレバレッジ率を下げながら軟着陸に向かいつつあります。経済情勢次第ではあるものの、年末にかけて不動産融資規制は幾分緩和される可能性が強まっています。

さらに、2015年に比べると実体経済の規模も質も格段に向上しており、中国本土では資本市場において投資家がリスク選好を強める傾向にあります。今年1~8月の新築販売金額は前年同期比23%増となるなど、引締め下でも主要都市圏を中心に不動産価格は底堅く推移しています。今後、都市化や再開発、所得向上に伴い高品質な住宅の需要増加が引続き見込まれます。

そのほか、同社は不動産管理や新エネルギー車など数百億米ドルに上る資産を傘下に持つほか、6月末時点で中国233都市に924件の住宅プロジェクト(再開発含む)建設用地を取得しており、計画建築面積は約3億㎡(100㎡を1戸とすれば約300万戸)にも上ります。これら開発用地の7割は主要都市圏にある優良資産です。

金融リスク回避は当局の優先課題

開発規模の大きさを鑑みると、同社の破綻は中国当局にとって容認しづらいでしょう。北京冬季五輪開幕まで150日を切り、2022年に5年に1度の共産党大会を控える中、経済の安定の維持は中国当局にとって何よりも重要な課題です。

しかし、安易に恒大集団の救済に乗り出すことは、大企業の経営の失敗は許されるというモラルハザードを引き起こし、長期的には金融システムの健全化に悪影響を与えてしまいます。したがって、一時的に債務危機に陥った万達不動産や海航集団のように資産売却で流動性を改善させるという再編手法が採られる公算が大きいと思われます。

最終的には、同社は破綻こそ回避されるものの、優良資産がスピンオフされ、中規模のデベロッパーとして存続することになりそうです。中国海外発展(香港:688)や華潤置地(香港:1109)などの国有系デベロッパーは業界再編を主導する有利な立場に立っており、同社の優良開発用地の潜在的な買い手として今後の動向が注目されます。

ただ、資産売却のタイミングを逸すると、クロス・デフォルトを起すリスクも高くなるため、注意深く見守る必要があるでしょう。

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ライター

柳 林

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

中国遼寧省瀋陽出身。日本の証券会社で中国株の調査に従事したのち、2003年にアイザワ証券に入社。投資リサーチセンター(現市場情報部)で中国株の調査、分析を担当する。2005年にアイザワ証券子会社の上海藍澤投資諮詢有限公司の社長に就任、2008年よりアイザワ証券上海駐在員事務所の首席代表を務める。日本からは分かりづらい中国の「リアル」な姿を現地から伝える。

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