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投資のコンシェルジュ 第9回 世界の分断で成長が加速する「サイバーセキュリティ」

2022.07.22 (金)

アイザワ証券 金融商品部

河西 幸弘

投資のコンシェルジュ 第9回 世界の分断で成長が加速する「サイバーセキュリティ」

世界の分断で成長が加速する「サイバーセキュリティ」への投資

本連載「第8回」では、日々、国際社会で深まる、「民主主義」と「専制主義」との地政学的「分断」により、かつての「協調」・グローバリズム時代から変貌する金融市場、「デフレ(ディスインフレ)からインフレへ」について報告させて頂きました。

そして、「分断インフレ」時代の投資戦略を以下のようにまとめています。

具体的には、

そして、マクロ経済の現象「インフレ」を捉える投資戦略として、筆頭で選好される日米の不動産投信「REIT」をご紹介して参りました。

今回、株式投資の具体的なテーマとして、

③国家問題として急浮上する「サイバーセキュリティ」「宇宙」関連銘柄

を加え、先行して「サイバーセキュリティと関連企業の急成長」について、投資戦略の目線で報告します。本連載では、①から③の内容について、順次、取り上げて参ります。

「分断」を決定づけたロシア進軍と国家問題化する「サイバーセキュリティ(CS)」

ロシア進軍はサイバー攻撃から始まった

2022年224日、ロシアはウクライナへの進軍が開始。その前、既に国境付近へのロシア軍は集結、ただ、「義」のない戦争を本当に「するか、しないか」、論客により憶測が飛び交う中で、ロシアは年初からウクライナへの強力なサイバー攻撃(及び偽情報流布「フェイク」)を開始。その件数は、マイクロソフト資料を基にした「図1」の通り、202112月から20223月まで、毎月約2倍のペース。

1月中旬にはウクライナ外務省など約70の政府機関のウェブサイトがロシアとみられるサイバー攻撃によりダウン。進軍前夜の23、24日にも、ロシアからとみられる「DDos攻撃」(大量のデータを送りつけて通信障害を発生させる)により、政府系サイトの閲覧が不可に。情報の収集や共有を妨害し、指揮命令系統を遮断して戦闘を優位に進めることが目的とされる。

勿論、この状況からウクライナ及び米国など同国を支援する各国は「ロシア進軍はある」とし、兵器などの物理戦とネット上のサイバー攻撃やフェイクなどによる情報戦を組み合わせた「ハイブリッド戦争」への守りを固めた。

各国で最重要の国家問題として進展するCS

米国では、既に送信元をロシアと断定する、度重なる同国の政府機関、主要企業へのサイバー攻撃を認識し、20215月、大統領令でサイバーセキュリティ向上を指示(図2)。本年1月には、国土安全保障省が報告書で、ウクライナ情勢に絡みロシアによる米国へのサイバー攻撃増強、を警告。

英国では、「国家CSセンター」がロシアからの大規模サイバー攻撃への防御強化を自国企業へ指示。日本でも、同月23日、金融庁が金融機関へ同対応強化を求めて通知、経済産業省は産業界へパスワードの脆弱性改善と本人認証強化を指示。また、EUでは、本年2月、情報通信関連の製品・サービスのCSとその標準レベルを強化する「サイバーレジリエンス法」が提案、本年中の施行を目指す。

既に、政府デジタル化で先行するエストニアの政府及び金融機関麻痺(2007年)、ジョージア政府サイトの改ざん(2008年)、ウクライナの大規模停電(2015年)、米大統領選での(クリントン候補に係る)偽情報(2016年)、などのサイバー攻撃にロシア関与が疑われ、他、北朝鮮、中国とみられるサイバー攻撃も多数、報告される。1990年台からのネット黎明期では「個人」、ネットバブル崩壊(2000年)以降は「企業」と、主にハッカー等による「民間」の問題であったCSは、前述の通り、主戦場は「国家」間となり、軍事費と並ぶ国家予算での対応を余儀なくされ、市場規模は飛躍的拡大が必至。CS技能を持つ優秀な人材が多数在籍する、関連企業の活躍が期待され、「支援」の意を含め、投資テーマとしての魅力は高まっている。

「空前の需要」により急拡大する世界のサイバーセキュリティ(CS)市場

世界CS市場規模は急拡大が必至

有力調査機関による20219月時点の世界CS市場規模・見通しは以下の通り、2022年で1,452億ドル(約20兆円)、2026年まで年率11%成長の予想。一方で、CS市場データの範囲により、20201,497億ドルから年約13%成長、2027年に3,460億ドルと強気な見方も。いずれにしても5年で約2倍ペースだが、ロシア進軍後に見直されると、必然的に、さらなる加速が示されるであろう。

ロシア進軍後に日本でもサイバー攻撃による大規模被害が多発

実際に、「図4」の通り、ロシア進軍以降の各国と強調した経済制裁を実施したタイミングで、日本でも企業等へのサイバー攻撃、大規模被害が多発しており、報復的な意図を疑わざるを得ない。

無論、各国でも、同様のサイバー攻撃を受けているはずだが、日本企業に関する被害報告が多いのは、総じて対策の遅れが要因であろう。

サイバー攻撃による被害は、単なるシステム=生産停止、に留まらない。システム復旧費用、業績下方修正の他、「図4」表中の「ランサムウェア」の攻撃では、その名の通り「身代金」が要求され、2021年平均支払額は54万ドルと前年比+78%(要求額は220万ドルと前年比+144%)と報じられている。

システム復旧までのコストとの見合いで支払うケースはあるようだ。また、企業にとって重要な「風評(レピュテーション)被害」は甚大となることも。このようなコストを強いられるならば、CSへ多額の費用を厭わない、との考え方が広まり、IT投資の最優先に「CS」を挙げる経営者は増えおり、企業の「必要投資」として関連企業はグロース株の「ディフェンシブ」とも言われる。

サイバー攻撃とCSの種類

「図5」の「主なサイバー攻撃」には、「図4」表中に頻出する「ランサムウェア」について記載した。CSが手薄な、トヨタ、ブリヂストンなど大企業の系列又はサプライヤー各社を攻撃し、サプライチェーン全体の稼働停止を狙うパターンが増加。復旧には身代金の方が安価と考え支払いに応じる企業はある模様。20215月米国の燃料パイプライン大手コロニアル社がランサムウェア攻撃を受けた際には、システム復旧へ身代金440万ドル(約6億円)を支払った(20216月、米司法省は同支払分の大半を奪還したと発表)。

また、同じく頻出の「コンティ」は、ロシアとのつながりが強いとされる攻撃者グループ。人事、教育、広報など会社のように組織化されていること言われ、近年、攻撃者グループは高度化している。CSには、それを超越する加速的進歩が求められる一方で、果てしない需要への投資妙味はやはり高い、と考える。

急成長するサイバーセキュリティ関連企業

世界の「分断」が進展=地政学的リスクの高まりは、サイバーセキュリティ(CS)市場急拡大を促すことで、関連企業の業績は急成長=株価上昇、が見込まれる。本稿の最後に、関連各社と業績動向に触れておきたい。

〔サイバーセキュリティ関連の代表する5銘柄〕

※第1Qの売上増減は前年同期比、第1Qの( )は市場予想比。
※第2Qの(  )Bloombergによる市場予想。

マイクロソフト(米国) 2022/07/15現在
▷株 価:256.72ドル〈年初来高値 334.75ドル1/3)、安値 242.26ドル6/13)〉
▷売上高:第1Q +18%(上振れ)、第2Q予想 53.2億ドル(52.5億ドル)
〇世界のほとんどの企業で使用される「Windows」をはじめ、ソフトウェア製品の開発、製造、販売、サポートを提供。サイバー攻撃激化に対応し、企業データ等を預かるクラウド事業が急成長、同世界シェア2位。クラウドとCSソリューションを組み合わせたサービスで高い収益性が見込まれ、付随サービスの成長加速も期待される。

クラウドストライク(米国) 2022/07/15現在
▷株 価:177.90ドル〈年初来高値 239.86ドル4/13)、安値 137.4ドル5/11)〉
▷売上高:第1Q +61%(上振れ)、第2Q予想 5.17億ドル(5.17億ドル)
〇企業のPCなど通信機器を守る「エンドポイント・プロテクション」を提供。 同社の“CrowdStrike Falcon”は、全顧客が受けたサイバー攻撃データをベースとし、AI(人工知能)による分析を活用し、既知だけでなく、未知のサイバー攻撃にも対応できるなど、他社製品への競争優位性を持つ。

パロアルトネットワークス(米国) 2022/07/15現在
▷株 価:508.96ドル〈年初来高値 629.01ドル4/13)、安値 436.37ドル5/19)〉
▷売上高:第1Q +29%(上振れ)、第2Q予想 15.0億ドル(15.3億ドル)
〇ネットワーク(社内ネット網など)用セキュリティの機器やサービスを提供。アプリケーションの識別と制御、コンテンツのスキャンによる脅威の防止、によりデータ漏えいを防止するファイアウォールを提供。世界中で事業を展開。

フォーティネット(米国) 2022/07/15現在
▷株 価:60.22ドル〈年初来高値 69.49ドル3/29)、安値 49.04ドル5/9)〉
▷売上高:第1Q +34%(上振れ)、第2Q予想 10.4億ドル(10.3億ドル)
〇ネットワーク用のセキュリティ機器、関連ソフトウェアなどを統合して、ネットワーク用セキュリティをサブスクリプション(月額など定期支払い)により包括的に提供。 主力商品FortiGate(フォーティゲート)は様々な脅威からネットワークを保護。クライアントは高い技術力をサブスクリプションで無理なく利用できる。

データドッグ(米国) 2022/07/15現在
▷株 価:93.60ドル〈年初来高値 174.60ドル2/10)、安値 81.99ドル6/16)〉
▷売上高:第1Q +83%(上振れ)、第2Q予想 3.80億ドル(3.78億ドル)
○企業の利用が拡大するクラウド、アプリケーション等の利用状況・ログ管理をリアルタイムでモニタリングできるプラットフォーム「Datadog」(IT運用管理ツール)を提供。データ量やログ管理で問題が発生すると自動的にアラートを発信。AIを活用したユーザー管理も可能。

上記5銘柄は全て米国企業で、CSに関し、最先端の技術を擁し、競争力の高いサービスを提供する点で共通。2022年第1Qはデータドッグの+83%、クラウドストライク+61%など、市場の予想成長率+13%を圧倒的に上回る。第2Qの各社予想売上高はレンジ上限だが、概ね、市場予想を上回り、ロシア進軍以降の需要増等による「上振れ」が期待される。

既報の通り、米株市場は想定を上回る当局の金融引き締めで、特にCS関連などグロース銘柄は株価が6月下旬まで大きく下落し、足元(7/15現在)では、市場がそれを織り込み、やや反発の気運。7月下旬以降に本格化する決算、同時に発表される業績見通しに安心感が出れば、ほぼ絶対的な需要を見込むサイバーセキュリティ関連銘柄の急反騰が十分に期待でき、投資好機は近づいている可能性は高いとみる。

上記など、新時代を見据えた投資のご相談は、お近くのアイザワ証券の各部店へ、是非、お立ち寄りください。

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ライター

河西 幸弘

アイザワ証券 金融商品部

河西 幸弘

国内大手の証券・保険会社において、リテール、事業法人、機関投資家等への金融商品の営業を、大手運用会社では15年に渡りRM(リレーション・マネジメント)等を経験。その間、証券アナリスト(CMA)、日本FP協会(CFP)、1級FP技能士等の資格を取得。そして、2021年4月、アイザワ証券入社。金融商品部において投資信託や債券等のストラテジックな商品提案を推進する一方、難解な金融市場の「分かりやすい」解説に挑む。

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