コリアインサイト 現代自動車と起亜、「フィジカルAI企業」への転換
2025.11.25 (火)
自動車産業のパラダイム(物の見方や価値観)が、徐々に根本的に変わりつつあります。これまで電気自動車を中心に展開されてきた技術競争は、AIを基盤とする「フィジカルAI(Physical AI)」産業へと軸足を移し、製造・運用・サービスのあらゆる領域で新たな転換期を迎えようとしています。とりわけ現代自動車グループの現代自動車(韓国:005380)と起亜(韓国:000270)は、この流れを最も積極的に取り入れている企業です。
「フィジカルAI」とは、人間が生きる物理世界をリアルタイムで認知し、判断し、行動を実行するAI技術を指します。自動運転・ロボティクス・スマートファクトリーなどが代表的な領域です。生成AIがデジタル空間でコンテンツを生成する技術であるのに対し、フィジカルAIは実世界で人に代わって動くAIと言えます。
自動車産業はこの点において非常に大きな強みを持っています。長年にわたり、安全性・耐久性・精密組立・巨大なバリューチェーン管理といった「現実世界で確実に作動する技術」を蓄積してきたからです。製造・物流・移動の現場がフィジカルAIの主戦場となる中、自動車メーカーの優位性が改めて浮き彫りになっています。
ロボタクシー:自動運転が再びビジネスになる
現代自動車グループでは、自動運転技術を研究段階から実サービスへと移行させる取組みが加速しています。2026年には、現代自動車と米自動車部品大手のAptivが共同で設立した自動運転企業、Motional(モーショナル)がロボタクシー事業を拡大する予定です。車両は現代自動車の量産モデル「IONIQ 5」を基盤としており、NVIDIAとの協業によってシミュレーションやAIトレーニングの精度を高め、完成度向上を図っております。
また現代自動車は、グローバル自動運転の先導企業であるWaymo(ウェイモ)とも協力し、IONIQ5ベースの次世代ロボタクシーを供給します。ジョージア州の工場、メタプラントで生産された車両にWaymo Driverが搭載され、2026年から北米主要都市で本格運行される予定です。これは、現代自動車がハードウェア技術力を活かして生産専門となる「自動運転車のファウンドリー」という新たな領域へ踏み出す戦略でもあります。
グローバルスマートファクトリー:120万台拡張が意味する工場革命
現代自動車と起亜は、2030年までに世界で120万台の生産能力を追加する計画を掲げており、大規模な新規工場の稼働が2025~2026年に集中しています。ジョージア州メタプラント第2段階拡張、インド・プネ工場再稼働、韓国・蔚山(ウルサン)のEV新工場、サウジアラビアCKD(コンプリート・ノックダウン)工場などがその中心です。
これらの工場には、デジタルツイン、AIによる品質検査、大規模ロボット導入など、スマートファクトリーのフルスタック技術が適用されます。またシンガポールのHMGICSで検証した技術がグローバル工場に展開され、現代自動車の「ソフトウェア中心工場(SDF:Software-Defined Factory)」戦略が本格化している状態です。これは、機械中心の製造からデータ・AI中心の製造へと移行する産業構造の大転換を象徴しています。
起亜:インド・米国を軸にした安定成長モデル
起亜もインド市場で積極的な成長戦略を展開しています。インドは低コスト・高いSUV需要・輸入障壁などにより、平均販売価格(ASP)は低くても利益率は高い市場です。起亜はSeltos(セルトス)やSonet(ソネット)などの小型SUVモデルを中心に高い稼働率を維持し、今後はハイブリッド中心のラインアップ拡大によって市場での地位を一層強化していく見通しです。さらにインドは外資系企業を差別しない市場構造を持ち、現代自動車と起亜が安定した2位圏内のシェアを維持できる土壌となっています。
電気自動車需要の鈍化や米国関税リスクなど短期的な不確実性は残りますが、現代自動車と起亜の戦略は明確です。AIを基盤に、製造・物流・移動まで統合するフィジカルAI企業への進化すること、自動運転ㆍロボティクスㆍスマートファクトリーの技術確立、将来需要が確実な領域(物流、製造、モビリティ)への先制投資がそれに該当します。
こうした技術的変革が実を結べば、現代自動車と起亜は単なる自動車メーカーを超え、「現実世界を動かすAI企業」として生まれ変わるでしょう。世界の自動車産業の競争軸はすでに変わり始めています。
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