
China Market Eye 上海にルイ・ヴィトンのクルーズ船型旗艦店が登場
2025.07.27 (日)




上海にルイ・ヴィトンのクルーズ船型旗艦店が登場
南京西路にある「ザ・ルイ」

上海随一のブランド街である南京西路に、巨大なクルーズ船が突如登場しました。それは、仏高級ブランド「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が2025年6月末に新規オープンした「ザ・ルイ(The Louis)」と呼ばれる実物大のクルーズ船形のコンセプト旗艦店です。同店舗は高さ30メートルの3階建てで、総面積が1,600平方メートルを超えます。中には、ギフトショップと小売スペースに加え、同ブランドの歴史を紹介する展示やカフェ、ダイニングスペースなども統合された複合的な空間となっています。
その船型設計は、上海の港湾文化に対する敬意であると同時に、創業当初から大洋横断トランクを製作してきたブランドのルーツに根ざしたものだと、ルイ・ヴィトンのデザインチームは説明しています。あまりにも大胆な店舗の外観デザインとそのスケールに圧倒され、連日大勢の来場者で賑わっているため、隣接するスターバックス上海旗艦店や同店舗が入居した興業太古滙(HKRI Taikoo Hui)も来客数が激増するほどです。
「ザ・ルイ」が上海に登場したのは、ルイ・ヴィトンが建築や文化、アートとの融合を通じてラグジュアリーを再定義する取り組みの一環であると同時に、上海市政府では国際大都市を目指して都市再開発を睨んだ積極的な外資ブランドの誘致を進めてきたことも大きな要因として伝えられています。ザ・ルイが立地する場所は、大規模な再開発が進められる100年以上の歴史を持つ「張園」エリアであり、伝統と革新を全て受け入れることこそが上海の精神でもあります。上海市では、世界的なブランドがひしめく南京西路エリアの年商が1,000億元(約2兆円)を目指すという目標が掲げられており、それを達成するには消費環境の整備やサービス質の向上並びにブランド店の誘致も欠かせません。
プラダ榮宅

実は、中国で建築や文化、アートの融合を目指す取り組みを始めた海外ブランドは、ルイ・ヴィトンだけではありません。2017年にイタリア著名ブランド・プラダグループは、「ザ・ルイ」から数百メートルしか離れない邸宅を改装した「プラダ榮宅(Prada Rong Zhai)」をオープンしました。上海市の重要な文化財としての同建物は、中国近代史上で著名な実業家が所有した築100年以上の豪邸です。
プラダ財団は数年かけてこの邸宅の改修プロジェクトに6,000万元以上を投じたといいます。この修復事業には、欧州をはじめとする世界の歴史的建築物でプラダが育んだ手腕が結集され、見事な復元を実現しました。この邸宅はいま、10年間のレンタルでプラダブランドの最も重要な拠点として、ブランド品の展示や販売、イベント、そしてカフェ・レストランが併設される唯一無二の豪奢な美術館のような存在となっています。
「プラダ榮宅」2階の広間

調査によると、2024年の中国の奢侈品消費額は前年比17%減少しました。グローバルブランドにとって中国市場はドル箱的な存在となっていたが、販売戦略の見直しを迫られています。不動産低迷やデフレが長引くなかで中国消費者のマインドが低迷するだけでなく、海外ブランドに対するZ世代の認知度低下や中国販売価格の割高感などがこれまでの成長パターンを覆そうとする構造問題も存在します。中国の若い世代はブランドを盲目的に追求せず、その価値の深掘り及び文化的な表現力などをより重視する傾向があります。
海外ブランドの中国販売が減速したとはいえ、中国市場は依然として巨大かつ魅力的です。ルイ・ヴィトン会長兼CEOが「ザ・ルイ」は、ルイ・ヴィトンの文化的な旅へのさらなる一歩となると語ったように、ルイ・ヴィトンとプラダは中国奢侈品市場のトップランナーとして販売戦略を転換する新たなアプローチと挑戦を始めたと言って良いでしょう。ルイ・ヴィトンの「ザ・ルイ」とプラダの「プラダ榮宅」はブランド市場に新風を巻き起こしているが、回復しつつある上海及び中国の個人消費に活気付けることも期待したいところです。
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