Aizawa Market Report 多角化を加速させるベトナムのビングループ
2025.12.26 (金)
多角化を加速させるベトナムのビングループ
ビングループ(ベトナム:VIC)はベトナム最大のコングロマリットで、会⾧であるファン・ニャット・ブオン氏が1993年にウクライナで設立した会社を前身とし、2012年に創業された。テクノロジー、不動産・サービス、インフラ、グリーンエネルギー等を含む6つの主要事業を展開している。創業当初はビンホームズ(ベトナム:VHM)ブランドでのマンション開発を手掛け、その後ビンパール(ベトナム:VPL)によるリゾート・テーマパーク開発・運営、ビンコムリテール(ベトナム:VRE)によるショッピングモール・スーパーマーケット運営等に進出して成功を収めた。また社会事業としてビンメック病院の運営、ビンスクールやビン大学など教育事業にも従事し、ベトナムでは同社の存在感は非常に大きい。
2017年にビンファスト(米国:VFS)を設立し電動スクーターと自動車生産に参入した。2021年には電気自動車(EV)の製造を開始すると同時に、2023年までに製造する自動車をすべてEVにすると発表した。同社は2023年8月に米ナスダック市場に上場し、2024年のベトナムでの新車販売ではついにシェアトップとなった。ビンファストはベトナム、アメリカの工場でEVを生産するほか、2025年にインド、インドネシアでも工場を設立し生産を開始した。
2025年はビングループが多角化を加速させた年であった。まず5月に鉄道インフラ事業を行うビンスピード(未上場)を設立し、高速鉄道事業に乗り出した。ビンスピードは12月、ドイツのシーメンス・モビリティと戦略的協力・技術移転契約を締結し、車両・鉄道システム等の設計・供給、技術移転・メンテナンスを含む広範な協力関係を確立した。その後、総工費670億ドルとされる南北高速鉄道計画への投資提案は取り下げたものの、すでに認可された北部ハノイ-ハロン、南部ベンタイン-カンゾーを結ぶ高速鉄道事業に注力する方針だ。10月にはビンメタル(未上場)を設立し、鉄鋼事業に参入した。同社は建設鋼材や自動車・交通インフラ向けの熱延鋼板を製造し、ビンホームズのマンション、ビンファストのEV等ビングループのエコシステム内での鉄鋼需要を賄うことを目標としている。加えて、高速鉄道や世界最大級のスタジアムを含むオリンピックスポーツ都市計画等、大型インフラ事業に高品質な鉄鋼製品を供給する方針だ。さらに11月にはビンスペース(未上場)を設立し、宇宙事業に乗り出した。航空・通信・自然科学の分野で科学調査や技術開発を行い、航空機や宇宙船の製造の他、航空輸送や衛星通信などを含む事業を行うとしている。この他にもVフィルム(未上場)を8月に設立し、映画製作や配給、テレビ番組制作、動画コンテンツ、音楽配信を行うなどエンタメ分野にも進出している。
これら一連の事業の多角化の背景には、5月に政府が発令した「決議68号」がある。この決議は2030年までに民間部門を経済の最も重要なセクターとして位置付け、国内で活動する企業数を200万社、最低20の大企業がグローバルバリューチェーンに参画することを目標としている。加えて民間部門の成⾧率を年間10~12%、対GDP比を55~58%(現在約50%)、政府歳入への貢献度を35~40%(現在約30%)とするなど、多くの目標が設定されている。「決議68号」の発令は、ベトナム株式市場が4月の米相互関税公表で急落したのち、堅調な回復を見せ史上最高値を更新した要因の一つと考えられる。現在、ベトナム市場で時価総額が最大となったビングループは、カリスマ経営者のブオン氏の元、今後もベトナムの経済発展の一翼を担っていくと思われるが、ビンファストは依然として赤字で不動産事業がグループの収益をカバーしていることを考慮すると、新規事業が収益に貢献できるかは、未知数の部分も大きいように見える。
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