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かぶかはふしぎでうごいてる??? 第2回 株式市場はインフレがお嫌い?

2021.12.13 (月)

アイザワ証券 投資顧問部

吉田 大路

かぶかはふしぎでうごいてる??? 第2回 株式市場はインフレがお嫌い?

インフレは悪者なのか

インフレは悪い現象なのでしょうか。個人的な感情で見れば、モノの値段が上がることが「けしからん」ことのように感じます。久々に訪れたラーメン屋の価格が上がっていると「えっ!」と思うし、買おうと思っていた商品が値上げされていると「げっ!」と感じるのは普通の感情だと思います。ただ、世の中全体で見た経済と、個人の感情は異なります。

少し前までは物価が上昇しないことが不思議がられており、世界的なデフレ圧力が問題になっていました。そこには、日本経済がデフレスパイラルで経済力を失っていった事例があるため、懸念の原因となっていたのです。ならば、インフレは望ましいことではないのでしょうか。超長期的に見れば、世の中はインフレ方向で進んできました。そして、経済は一時的な停滞はあっても成長してきました。

生じる可能性が低いリスクも新鮮ならば

スタグフレーション懸念

不景気の時にモノの値段が上がることを「スタグフレーション」と呼びます。非常に厳しい経済状態であることに説明はいらないと思います。もちろん株価も軟調展開になるでしょう。現在はコロナ禍による経済落ち込みからの回復過程なので高い成長率になっていますが、時間が経過するにつれて通常状況との比較になるため、通常状況の成長率にまで低下していきます。この成長率が低下することを不景気と読み違えていることが「スタグフレーション懸念」の背景ではないのでしょうか。

オーバーキル懸念

これまでの堅調株価の背景にコロナ過対策による大規模金融緩和があったことはよく知られています。FRBはコロナ禍対策として行っていた、異例の金融緩和拡大路線を変更し始めました。非常事態が解消に向かえば非常事態対応を終息させることに問題はありません。懸念されるのは、インフレ対策としての金融引き締めが加わることにより、経済状況を悪化させるレベルまで引き締めを行うことに対する懸念です。これは、FRBの手腕による所が大きく、上手くやれるか、失敗するかを予測することは不可能です。ただ、歴史的にはFRBは上手くやってきており、それが米国経済の強さや最高値を更新し続ける株価に表れています。「今回は違う」という兆候は今のところ見当たりません。

長い間インフレという現象について考える必要がなく、どちらかと言えばデフレのほうにリスクを感じていただけに、現在の状況はインパクトが強いです。また、リーマンショック以降、何度かの調整局面を挟みながらも堅調に推移してきた株式市場の背景に変化が生ずることへの懸念もあると思われます。ただ、上記2つの懸念材料は破壊力が大きいものの、発生する可能性は低いものです。新しいものが大好きな株式市場は、新しいリスクシナリオにも飛びついたようです。

インフレは企業利益を押し上げる

一般的に株式資産はインフレヘッジの資産として考えられています。

最も納得しやすいがロジカルでない説明が「①インフレなのだから株価もインフレる」です。これは説明不要ですね。一番真理に近いかもしれませんが、あまりにもひねりが無すぎます。

もう少し踏み込んだ説明が「②インフレは企業の資産価格を引き上げるから」です。ある会社の資産合計が1000億円あればその企業の時価総額(株価×発行済株式数)は1000億円以上となる株価で評価されそうです(このようにならないケースも多いのですが、直感的な理解でお願いします)。その資産の内、在庫の評価額が500億円だったのですが、在庫商品の値上がりによって在庫の評価額が1000億円になったとします。すると会社の資産合計は1500億円と1.5倍になり、それに見合った株価上昇が期待されます。このパターンで考えると、インフレが発生すると株価が上昇すると考えることは不思議なことではありません。

一番応用の利く考え方が「③インフレになると会社の利益が増えるから」です。黒字の会社であれば、販売価格は原価よりも高いです。

例で考えると、100円(販売価格)-70円(原価)=30円(利益)となります。仮に10%のインフレであれば販売価格は110円(100×1.1)になり、原価は77円(70×1.1)となります。すると利益は33円に増加します。販売価格>原価の商売であれば販売価格の増加額が原価の増加額を超えるので利益は増加します。この状況が反映されれば株価が上昇することは不思議なことではありません。

大切なのはインフレが社会現象であり全体的に物の価格が上昇する現象を意味することです。一部の商品が値上がりすることをインフレとは呼びません。よくある、インフレで企業業績の悪化が見込まれるといった議論は、一部の企業に生じている現象をクローズアップしているに過ぎません。テレビでは、飲食店の店長が「仕入れ価格が上昇するけど値上げは出来ないので利益が減って困っている」みたいな画像が流れます。確かにこの飲食店の利益は減少しますが、飲食店に仕入れを行っている業者の中には「しめしめ」と思っている者が存在するかもしれません。

インフレとの接し方

インフレのような現象を事前に予測することは困難です。これは金融当局の舵取りが上手く行えるか、否かということに依存している部分が大きいからです。現在ならば、パウエルFRB議長の手腕が試されているとも言えます。今回、パウエル議長はインフレについて「一時的な現象である」との見解を引き下げ、金融緩和の縮小スピードを速める可能性についても言及しました。これが正しい選択なのか、間違っているのかは先にならないと評価できません。判断の正誤よりも、現在の状況を検討し正しい考える策を打てることが大切だと筆者は考えています。怖いのは金融当局の選択が他の要因によりフリーハンドを失うことです。

例として挙げられるのは政治の介入です。過去の例としては、トランプ大統領による景気重視のために金利を上げ始めたFRBに「利上げをするな」と圧力をかけたケース(FRBは屈せずに利上げを続けた所は素晴らしいと思います)。その他にも、世論の圧力が存在します。バブル崩壊後の日本は「バブルつぶしを良いことだ」とする世論に後押しされて、日本経済をオーバーキルしてしまったのではないだろうかと、筆者は考えています。

長いデフレ期間を経た日本人は物価が上がらないことが当たりまえの感覚となっていますが、海外では異なるようです。インフレは常に生じているようです。そして、それらの国は日本よりも経済成長率が高くなっています。そこからも解るように、インフレ自体は悪いことではなく、大切なのは経済成長(企業業績の成長)が継続されるかという点です。そして、経済成長が続くと考えられるならば株式はインフレを嫌わないでしょう。

執筆後記

第2回目は時事ネタとして「インフレ」について書いてみました。大きな話題なので取り扱うのは大変でしたが、楽しんでもらえたでしょうか。構成を壊さないようにするため、あえて触れなかった点(例えば名目と実質のはなし)もあります。当文章に対して首をかしげられた方もおられるかと思います。これに懲りずに、また読んでいただければ励みになります。おおよそ月に一度の発行スケジュールなので、次回もよろしくお願いします。

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ライター

吉田 大路

アイザワ証券 投資顧問部

吉田 大路

2015年アイザワ証券入社。現在は投資顧問部運用課に所属。当社入社以前は証券系投資信託、生保系投資顧問、信託銀行などで約30年間、資産運用業務を行ってきた。基本的にブログやSNSはやらないので、今回の業務に伴う書き込みが初めての体験。

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