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コリアインサイト 急成長する防衛産業の背景と直面する課題

2024.12.30 (月)

有進投資証券

成 承桓

コリアインサイト 急成長する防衛産業の背景と直面する課題

韓国の防衛産業のルネサンス

現在、韓国の防衛産業界は急増する輸出の影響により史上最大の好況を迎えています。2020年までは年間平均30億ドルだった輸出規模は、2021年に約70億ドル、2022年に173億ドル、2023年には約130億ドルを記録しました。2023年には一時的に輸出の増加が止まりましたが、これは韓国輸出入銀行の融資限度額に起因する制度的な問題で契約が遅れたためです。輸出量の増加が続けば、今年は150億ドル以上に達し、好調であれば200億ドルまで到達する可能性があると韓国政府は予測しています。

出所:韓国開発研究院(KDI)

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、韓国の20122016年における武器の輸出量は世界市場の1.0%に過ぎませんでした。しかし、20172021年には2.8%に上昇し、韓国は世界8位の武器輸出国となりました。また2017年から2021年にかけて韓国の武器輸出額は177%増加し、韓国は武器輸出国の世界トップ25の中で最も高い増加率を記録しました。韓国政府は2027年までに世界防衛市場シェアを5%に引き上げ、世界4位の武器輸出国へと飛躍するという目標を掲げています。

防衛産業企業の売上高推移

出所:金融監督院(FSS)

上記の図表に示された4社は、韓国の軍需企業の「ビッグ4」と呼ばれています。

ハンファエアロスペースはK9自走榴弾砲、レッドバック、K239多連装ロケットなどの装甲車を生産し、ポーランド、オーストラリア、アラブ首長国連邦への輸出により成功しました。韓国航空宇宙産業(韓国:047810)FA-50戦闘機、T-50練習機などの軍用機を生産し、ポーランド、マレーシア、インドネシアへの輸出、LIGネクスワンはヘリコプター部品、軍用無線機、天弓(チョングン)ミサイルなどを生産し、インドネシアやアラブ首長国連邦への輸出を実現しました。最後に、現代ロテム(韓国:064350)K2戦車を生産し、トルコとポーランドへ輸出できるようになりました。

このような好況は、国際政治の変化によってもたらされました。3年間続くロシアのウクライナ侵攻、1年近く続く2023年パレスチナ・イスラエル戦争、そして米中間の対立による軍事的緊張が複雑に絡み合っています。ストックホルム国際平和問題研究所によると世界各国の防衛予算は2016年の17,870億ドルから2021年には270億ドルへと増加し、年平均で2.3%の増加を示しています。

例えば、ドイツはロシアのウクライナ侵攻以降、防衛費を国内総生産(GDP)2%以上に引き上げ、約1,000億ユーロの特別防衛基金を創設して、軍事装備の現代化に取り組むことを決定しました。

韓国の防衛産業の強み

韓国の防衛産業の最大の強みは、価格競争力にあります。世界で最も性能が良いと評価されているドイツのPzH2000自走榴弾砲に比べても韓国のK9自走榴弾砲はほぼ同等の性能を持ちながら、1門当たりの価格がドイツの半分程度です。この価格競争力を背景にK9自走砲は世界市場で約60%のシェアを占めています。

韓国の防衛産業のもう一つの強みは、他国と比べて極めて迅速な供給能力にあります。武器の種類によって差はあるものの、注文から納品まで何年もかかる主要武器輸出国とは異なり、韓国は発注から納品までの過程が非常に速いのが特徴です。

韓国は20227月にポーランドと契約したK2戦車10両とK9自走榴弾砲28門をわずか4ヶ月で納品しました。ポーランドが韓国の武器を選んだ背景には、競争相手であるドイツより納品期間がはるかに短かったという事実があります。

韓国の防衛産業の成長阻害要因

戦争などの外部要因を除けば、韓国の防衛産業の成長がどれほど持続可能かは未知数です。昨年、フィンランドやノルウェーなどが新たな取引先に加わり、韓国の輸出対象国は12カ国に拡大しました。しかし、ドイツ、フランス、イタリアなどの競合国が2040カ国に輸出している状況と比べると、韓国の防衛企業の取引先は依然として限られていると言えます。さらに、フランス、ドイツ、イタリアなどの西欧諸国はポーランド、チェコなどの東欧諸国に対して、東欧諸国が海外から購買する武器の中でヨーロッパ産武器のシェアを現在の20%から2035年までに60%へ引き上げるよう要求する動きを強めています。

また、戒厳令の影響も無視できません。防衛産業は政府と政府の間に契約が結ばれなければ成果を上げることは難しいです。戒厳令による政治的不安定がこの好況期における成長の妨げになっているとの指摘があります。最近、訪韓したキルギス共和国のサディル・ジャパロフ大統領は、尹(ユン)大統領による戒厳令を理由に韓国の軍需企業の視察をキャンセルし、早期帰国しました。また、韓国の武器に関心を示していたスウェーデンのウルフ・クリステション首相も、韓国の軍需企業との非公開面談の日程をキャンセルし、無期限延期しました。

韓国の防衛産業界の関係者は次のように述べています。「責任ある高級官僚や政治家が防衛産業界に力を与えなければならない状況なのに、現在は戒厳令の影響でこの状況をまとめる人物がいない。韓国の政治が安定すれば、韓国の防衛産業界も事業を再開し、通常の状態に戻れる。」

※ハンファエアロスペースとLIGネクスワンはアイザワ証券では取扱っておりません。

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ライター

成 承桓

有進投資証券

成 承桓

全南大学卒業後 、 未来アセット証券 、 教保証券 、 SK 証券を経て 、 2008 年に有進投資証券入社 。 国際営業チーム 、海外事業 チーム 、 海外投資チームを 経て 、 2021 年よりマルチ金融チームで日本の不動産及び金融商品を 担当している 。趣味はランニングと映画鑑賞 。

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