
ASEANトピックス ASEAN諸国の国内情勢と株式市場の反応
2025.10.16 (木)




当記事は毎月、アイザワ証券投資情報サイトに掲載しているアイザワ・グローバルマンスリーより抜粋しております。
ASEAN諸国の国内情勢と株式市場の反応
8月以降、ASEAN 諸国では政権交代や反政府デモが頻発するなど国内情勢が混乱している。タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの4 カ国についてその背景と経済・マーケットの状況を振り返る。
タイでは8月にペートンタン首相が失職に追い込まれ、その後任としてタイ名誉党の党首であるアヌティン氏が新首相に就任した。タイ名誉党は比較第3党で、下院の定数500議席のうち69議席しか持たず、政権運営には2大政党のいずれかの支持が不可欠となるため、不安定な政治情勢が続く見通しだ。タイではGDPの約20%を占める観光業が失速。外国人観光客は今年2月以降前年割れが続き、1月から8月までの累計は2,190万人で前年同期比7.2%減と、2025年目標の3,500万人を下回る見込みだ。さらに、政権交代や米利下げに伴うドル安観測を追い風に、通貨のバーツは2021年以来の高値を付け、輸出競争力低下への懸念が高まっている。バーツ高により経済の柱である輸出・観光産業は逆風にさらされ、SET指数は足元戻り基調も年初来高値を抜けておらず、新政権は難しい舵取りを迫られている。
インドネシアでは国会議員に対する高額な住宅手当に反対するデモが8月から頻発していたが、配達中のバイク運転手が機動隊車両と接触し死亡したことをきっかけにデモ隊の一部が暴徒化。プラボウォ大統領は議員住宅手当の廃止や内閣改造で乗り切ろうとしているが、9月8日の内閣改造でスリ・ムルヤニ財務相を更迭したことで事態は悪化した。デモの背景には経済成⾧の停滞で強まる国民の閉そく感もあり、「経済安定の要」とされた同財務相の更迭で財政規律の崩壊を不安視した市場は、通貨ルピアに売りを浴びせた。ただ8月に続き9月も利下げしたことや、約10億ドルの景気刺激策が発表されたことが好感され、ジャカルタ総合指数は9月23日に史上最高値を更新し株式市場は堅調である。
フィリピンでは洪水対策事業をめぐる大規模な汚職が発覚し、マニラ首都圏を中心にフィリピン各地で抗議活動やデモが発生した。フィリピンでは台風などによる洪水被害が頻発する中、予算が計上されても事業が行われない「幽霊事業」の存在が明らかになり、国民の間で批判が高まっていた。9月21日はフィリピン全土で政府に対する抗議デモが行われ、マニラでは数万人規模が参加した模様である。デモ隊の一部は警官隊と衝突し、投石や警察車両への放火などで拘束者も出た。一連の疑惑はマルコス大統領の側近や親族にも及び、フィリピンの政治動向に大きな変化をもたらす可能性もある。中央銀行は8月、3会合連続で利下げを実施するなど金融緩和を続けているが、買い材料に乏しく政府の腐敗が追い打ちをかけ、フィリピン総合指数は年初から9%程度下落するなどさえない状況が続く。
対照的に政治的に安定しているのがベトナムだ。ベトナムは2024年3月にトゥオン国家主席の解任、7月に最高指導者のグエン・フ-・チョン共産党書記⾧が死去するなど混乱が見られる中、8月にトー・ラム国家主席が共産党書記⾧に就任した。公安省出身のラム氏は反汚職運動や全方位外交など従来の路線を継承するとともに、中央省庁や地方行政機構の再編、民間企業の活性化など経済の効率化を重視する政策を矢継ぎ早に打ち出した。また南北高速鉄道や南部のロンタイン新空港の建設、原子力発電所の推進などインフラ投資も進めるとともに、緩和的な金融政策を背景に株式市場は上昇。VN指数は9月4日に1,696ポイントと史上最高値を更新した。10月はFTSEラッセルの市場区分見直しで、ベトナムがフロンティア市場から第二新興国市場に格上げされる期待もあり、ASEAN市場の中で政治・経済共にベトナムの優位性が際立つ展開は当面続きそうだ。
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