【米国株】フィンテック(前編): ティール氏やマスク氏などのペイパル・マフィアが存在感
2024.05.07 (火)
フィンテックとは金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語で、日本銀行のホームページによると、米国では2000年代の前半から使われていたそうです。
フィンテックという言葉が一般に広がる前の1998年に米国でコンフィニティという企業が誕生しました。消費者と事業者を結ぶ世界初のデジタル決済プラットフォームを構築するというアイデアを掲げ、その後に社名をペイパルに変更しています。
決済の仕組みを根底から覆すような取り組みを始めたペイパルの事業には今から振り返ればきら星のように人材が集まっていました。その後に投資家や起業家として成功する人が続出しており、こうしたペイパル出身者は「ペイパル・マフィア」と呼ばれています。
ペイパル・マフィアの中心人物として知られるのが著名な投資家で経営者でもあるピーター・ティール氏です。ティール氏はフェイスブック(現在のメタ・プラットフォームズ:META)の初期の投資家として知られており、生成人工知能(AI)開発のオープンAIにも財政支援を行っていました。経営者としては、ビッグデータ解析のソフトウエアを開発するパランティア・テクノロジーズ(PLTR)を創業しています。
ペイパル・マフィアのもう一人の中心人物とされるのがイーロン・マスク氏です。ご存知の通り電気自動車(EV)のテスラ(TSLA)や宇宙開発のスペースXを立ち上げています。
このほかにもティール氏とコンフィニティを共同で創業したマックス・レブチン氏は後にフィンテックのアファーム・ホールディングス(AFRM)を設立しました。レブチン氏はイリノイ大学時代の同級生スティーブ・チェン氏をペイパルに誘い、チェン氏はペイパル時代の同僚であるジェード・カリム氏らとその後、ユーチューブを共同で創業しています。
ペイパル・マフィアは天才起業家集団などと呼ばれることもあるそうですが、主要メンバーの出身地を見ると、ピーター・ティール氏が旧西ドイツ、イーロン・マスク氏が南アフリカ、マックス・レブチン氏がウクライナ、スティーブ・チェン氏が台湾、ジェード・カリム氏が旧東ドイツと実に多彩です。
多様な価値観の中で普遍的なものが生き残り、定着する。ペイパル・マフィアはある意味で競争力の高い米国産業界の縮図なのかもしれません。今回のコラムではまず、そのペイパルから見ていきたいと思います。
ペイパル・ホールディングス、年間取引数は250億回
ペイパル・ホールディングス(PYPL)はオンライン決済サービスを手掛けています。デジタル決済ソリューションで消費者と商店などの売り手をつなぎ、簡単かつ安全な決済という利便性を双方に提供するビジネスです。
2023年末時点で200を超える市場で事業を展開しており、利用者のアクティブアカウント数は約4億2600万件に上ります。内訳は消費者が3億9100万件、商店などが3500万件です。
商品やサービスを購入したときの支払いはもちろん、送金や集金などでも使えます。2023年通年の取引件数は約250億回、決済額は1兆5300億ドルに上ります。「ペイパル」のサービスでは消費者はクレジットカードやデビットカード、銀行口座などに紐づいた「ペイパル」のアカウントにスマートフォンなどでログインし、支払うことが可能です。店舗側にカード情報がわたることがないため、より安全な決済手段とされています。
「ペイパル」以外では買収を通じて傘下に収めた法人向け決済サービスの「ブレインツリー」やデジタルウォレットの「ベンモ」などが知られており、特に「ベンモ」は割り勘などの個人間送金に便利な機能を持ち、若者を中心に支持されています。
後払いサービスのペイディを3000億円で買収
また、米国ではオンライン決済事業者による後払い(Buy Now, Pay Later=BNPL)サービスが大流行し、ペイパルも「ペイレイター」でこうした需要を取り込んでいます。さらに日本でBNPL事業を展開するスタートアップ、ペイディを3000億円という大枚をはたいて買収するなどこの分野に力点を置いているようです。
オンライン決済サービスとして成長してきたペイパルですが、起業直後の苦難の時期を支えたのが、電子商取引(EC)大手のイーベイ(EBAY)です。イーベイの売り手が利用し、1998年の創業から2年後の2000年に利用者数が100万人を超えています。
両社の蜜月関係は続き、2002年にはイーベイがペイパルを約15億ドルで買収しました。ペイパル・マフィアの面々はペイパル株の売却で手にしたまとまった資金をを元手に、その後の飛躍につなげています。ペイパルの最高経営責任者(CEO)だったピーター・ティール氏は、イーベイによる買収を機にCEOを退任し、異なる道を歩み始めています。
その後、ペイパルは10年以上、イーベイの子会社でした。イーベイの手元を離れ、ナスダック市場に上場したのが2015年です。アップルペイなどの競合の台頭を機にイーベイ傘下に収まっていることを不利と判断した結果といわれています。
ブロック、決済ソリューションでペイパルと競合
ブロック(SQ)の旧社名はスクエアで、2021年12月に現在の社名に変えています。事業内容は商店向けの決済ソリューションサービス「スクエア」と「キャッシュアップ」の運営が中核で、ともにペイパルと真正面からぶつかります。
スクエアでは決済を中心に多様なサービスを商店に提供しており、業務の効率化を促しています。スクエア部門の2023年12月期の売上比率は32.1%、粗利益に占める割合は41.7%です。ペイパルがネット通販のオンライン決済、スクエアが対面のモバイル決済に強みを持つという分析もあります。
一方、キャッシュアップは売上比率が67.0%、粗利益に占める割合は57.6%です。デジタルウォレットとして、個人間送金のアプリという土俵でペイパルのベンモとしのぎを削っています。
記事提供:DZHフィナンシャルリサーチ「いまから投資」(https://imakara.traders.co.jp/)
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