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China Market Eye 上海ロックダウン

2022.04.25 (月)

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

China Market Eye 上海ロックダウン

上海ロックダウン

新型コロナウイルスのパンデミックが発生してから約2年が経ちました。そのような中、中国・上海市では主にオミクロン株の感染再拡大を受けて、3月末からロックダウン(都市封鎖)が始まり、世界的に注目を浴びています(下図参照、上海市の感染者は4月以後、中国全体の大半を占めている)。

過去2年間にわたってゼロ・コロナ政策の下、中国各地ではロックダウンが断続的に行われてきましたが、上海市についてはこれまでゼロ・コロナ政策の優等生としてロックダウンを回避してきました。このたびの感染急拡大の理由については以下の理由が挙げられます。

まず、2月末以降、爆発的にオミクロン株の感染が拡大した香港から中国本土へ一時避難する人が激増し、離接する深センで厳戒態勢が敷かれました。これにより、空路で上海に人が押し寄せ、従来的な水際対策が不十分だった可能性があります。

次に、ゼロ・コロナ体制の下で、中国の威信をかけた大規模イベントの北京冬季五輪は無事成功に終わりました。しかし長い間溜まりに溜まったコロナ疲れと厭戦気分が、コロナ規制の緩みや現場の執行力の低下を招き、五輪終了後に上海を含めた中国各地での感染再拡大につながったとみられます。

最後に、ゼロ・コロナ政策を成功させるには、感染者の早期発見と早期隔離によって経済的コストを最小限に抑えることがカギです。ところが弱毒で伝播力が異常に強いオミクロン株を早期に発見するのは極めて困難なため、これまでの成功体験はあまり通用しなくなっています。

上海は中国のビジネスセンターであるだけに、PCR 検査をピンポイントで行い、感染者を早期発見することで全面的なロックダウンを極力回避してきました。このように、中国国内の多くの地域とは一線を画す、いわば「ソフト路線の上海モデル」を樹立したのです。

しかし今回の感染再拡大は、ゼロ・コロナ政策と経済発展を両立させてきた上海モデルの挫折を意味し、中国各地並みにゼロ・コロナ政策の徹底が求められています。中央政府の強力介入により、2,500万人を擁する上海市は何の準備もないままロックダウンに突入し、様々な場面において大きな混乱が生じています。

上海のロックダウンは、基本的には2年前の武漢(人口1,200万人、76日間封鎖)や、昨年の西安(人口1,300万人、24日間封鎖)、鄭州(人口1,200万人、25日間封鎖)、今年の深セン(人口1,800万人、7日間封鎖)のロックダウンと同じである一方で、準備不足や人口の多さ、外国企業の集中、サプライチェーンの中断など異なる点もあります。

特に経済的な面で言うと、上海を中心とした揚子江デルタでは半導体(中国全体の6割強)や自動車など基幹産業の集積が進み、上海に安徽省、浙江省、江蘇省を加えた4地域の昨年のGDP27.6兆元(約550兆円)と、中国全体の約4分の1を占めています(下図参照)。

また、上海港のコンテナ取扱量は12年連続で世界トップの座をキープし、日系企業だけで1.1万社がかかわるなど、グローバル経済におけるプレゼンスも際立っています。シンクタンクによると、上海のロックダウンが4月一杯まで続くようであれば、今年上期の中国のGDPはおよそ0.5ポイント押し下げられると試算されます。

ロックダウン下の市民生活

市民生活への影響については、ロックダウン開始前に市民がスーパーに殺到し、食料品や飲料水などの買い占めに走り、十分な食料を確保できなかった市民も一定数発生したものと想定されます。ロックダウンが始まると、PCR検査の時を除けば家の玄関から出てはいけない状況となっています。

配給の遅れや配られた食料の量や質について、不満を訴える住民が多数いたのは武漢などほかの都市も同じでした。また、病院がロックダウンにより閉鎖され、持病治療のために定期的に受診できなくなったり、通販で薬を購入してもなかなか届かないなど、病気やケガの場合の対応は不十分です。

市のトップは、こうした不便をかけたことについて陳謝し、事態の改善を約束しました。実際のところ、時間が経つにつれて食料の配給は着実に増え(普段の生活水準を維持できるほどではないが)、緊急時の対応も整うようになってきています。

配達員が限られる中、ウィーチャット(中国版LINE)などを通じた住居コミュニティグループによる「団購」(チャット上でまとめて食料等を発注する共同購入システム)は、政府配給と異なる市場メカニズムを作り、上海市民の生活資材調達に大きな役割を果たしています。

「団購」は当初は食料品のみでしたが、調味料、弁当、日用品、キチン用品、ヘルスケア用品、ペット用品、嗜好品、冷蔵庫など、スーパーや商店の営業再開や配達員の増加に伴って、日増しに品目を拡大しています。通常時より若干割高で、配達に1~3日かかりますが、ロックダウン下では非常にありがたいと言えます。

中国のことわざに「遠親不如近隣」(遠くの親戚より近くの他人)があるように、食料品の購入がままならない中で、住民同士での情報交換やコミュニケーションが活発化し、物々交換を行ったり、年寄りなど困った人を助けたりするなど、助け合う連帯感もかつてなく強まっています。

また、中国の厳格なロックダウンは、居住委という政府の末端組織が機能し可能にしていますが、実際にはPCRの全員検査や隔離施設の運営、「団購」や団地内の配達にしてもボランティアの参加なしでは成し遂げることができません。登録ボランティア数は590万人と市民の5人に1人を占めるなど、ボランティア精神は元々上海の誇る文化の一つとして根付いています。この未曽有の困難を前に、若者を中心とした多くの人がボランティア活動に身を投じ、防疫最前線に立っています。

ゼロ・コロナ政策を見直すか

過去3週間で上海全市民を対象としたローラー作戦を繰り返し実施した結果、418日から隔離施設を離れる回復者数が、初めて新規感染の入院者数を上回るようになっており、感染拡大のターニングポイントを迎えつつあります。新規感染者が14日以内に発生していないことを基準に、4月末にかけてロックダウン解除が段階的に行われる可能性が高いと考えられます。

経済復興に向けてテスラや上海汽車など大手企業を筆頭とする600社以上は、すでに外部との接触を遮断する「バブル方式」で生産を再開したほか、当局は物流規制を緩和するなどサプライチェーンの安定に向けた一連の措置も大幅に強化しました。

深センや鄭州、西安などのロックダウン解除後の状況に鑑みると、今後の経済活動の急回復が期待できるでしょう。過去2年間、断続的なロックダウンが中国各地で続いたにもかかわらず製造業が好調に推移したのは、ロックダウン解除後に需要に後押しされ、フル稼働で損失を取り戻せたからです。したがって、ロックダウンの影響は製造業よりも主に外食や娯楽、観光など接触型消費サービスに集中すると考えられます。

世界的に新型コロナの感染拡大がピークアウトし、ウィズ・コロナが大きな潮流となる中で、中国当局がゼロ・コロナ政策を見直すかが大きな焦点となっています。

中国がゼロ・コロナ政策に固執するのは、中国の医療システム(ICU病床数が先進国に比べると少なく、予約診療が定着していないなど)が脆弱なため、防疫の緩みが医療崩壊に直結し社会不安を引き起こしかねないことが背景にあるからです。また、体制優位を発揮したコロナ制圧を内外にアピールする政治的な思惑も見え隠れします。

しかし、北京冬季五輪後の各地のロックダンで、1~3月期の中国の鉄道・航空旅客数が10年前の水準にまで逆戻りし、調査失業率が2年ぶりの高水準に跳ね上がるなど、経済的損失は格段に膨らんでいます。新規雇用の大きな受け皿となっている経済のサービス化の流れは止まり、景気の足かせとなっています。

もしゼロ・コロナの継続により、行き過ぎたロックダウンを余儀なくされるようならば、中国の経済成長目標(2022年は5.5%前後と設定されている)の実現は絶望的になるだけでなく、世界が正常化に向かう中で中国だけが取り残されてしまうでしょう。実際には中国国内でもゼロ・コロナ政策からの転換や世界との同調を訴える専門家が増えており、上海のロックダウンが長引く中で社会的リソースの浪費を感じる市民も少なくありません。

4月に世界銀行とIMFが発表したレポートでは、中国のゼロ・コロナ政策は世界経済にとって主要なリスクの一つとして挙げられており、それによる成長鈍化を補うための中国の債務増大リスクも指摘されています。マーケットでは、米金利高に乗じて人民元・中国株・債券のトリプル安となっています。ゼロ・コロナ政策は中国経済の先行きに不透明性をもたらし、その見直しを市場が催促しているとも言えるかもしれません。

経済発展は中国の政権安定の基盤です。過去30年間、中国がアジア経済危機やリーマンショック、中国ショック、米中貿易戦争など様々な危機を乗り越え、経済成長を成し遂げたのは、当局が優れた危機対応力と学習能力を発揮し、中国の現実に即した政策の柔軟性とバランスを維持したからです。上海ロックダウンを機に、当局がこれまで掲げてきたゼロ・コロナの旗を、段階的ながらも世界並みの現実的な対応へと変化し進めていくことが期待されます。

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ライター

柳 林

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

中国遼寧省瀋陽出身。日本の証券会社で中国株の調査に従事したのち、2003年にアイザワ証券に入社。投資リサーチセンター(現市場情報部)で中国株の調査、分析を担当する。2005年にアイザワ証券子会社の上海藍澤投資諮詢有限公司の社長に就任、2008年よりアイザワ証券上海駐在員事務所の首席代表を務める。日本からは分かりづらい中国の「リアル」な姿を現地から伝える。

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