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ザ 語源 第20回 語源から考える「ブランディング」

2023.05.08 (月)

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

ザ 語源 第20回 語源から考える「ブランディング」

語源から考える「ブランディング」

「ブランディング:branding」とは自社商品・サービスに対する顧客愛着度、共感度を高め競合他社との差別化を図る経営活動とされています。「ブランディング」は「マーケティング」と同様に「ブランド:brand」に現在進行形や動名詞等で使われる「ing」が加えられた経営用語です。

今回は語源から考察した「ブランディング」の本質に迫ります。

始めに「ブランド」の語源から解説します。まず「ブランド」は時計やバッグなど高級品を示すものであるとは限りません。生活の中にある日用品や食品でも消費者によって「あのメーカー」と頭に浮かべば「ブランド」です。例えば、ハンバーガーなら「マクドナルド」、炭酸飲料なら「コカ・コーラ」などが「ブランド」です。「セロテープ」や「ホッチキス」などブランド名がそのまま商品分類名として定着するようになった例もあります。

「ブランド:brand」は古い北欧の言葉で「焼き印」を意味する「ブランドル:BRANDR」が語源です。放牧していた牛などの家畜に対し所有者が「焼き印」を押し自分の所有であることを示していたことが「ブランド」の始まりです。私どもは産地特産の高級牛を「ブランド牛」と言いますが「ブランド化」されたのは牛が最初だったのです。

「ブランド」の始まり:牛の「焼き印」

「ブランド:brand」と同じ語源を持つものが「ブランデー:brandy」です。「ブランデー」はワインなど果実酒を蒸留して作られた「蒸留酒」です。「ブランデー」の語源はフランス語経由では「ヴァン・ブリュレ」、オランダ語経由では「ブランデーワイン」でどちらも「焼いたワイン」を意味します。日本酒やビール、ワインなどは原料を発酵させて造る「醸造酒」です。

一方、「ブランデー」や「ウイスキー」、「焼酎」は「蒸留酒」に分類されます。「蒸留酒」は醸造したお酒を火で熱し、一旦気化させ気体となったアルコール成分を液体に還元して生成します。加熱により還元された液体は濃縮されアルコール度数は上昇します。燃やす、または焦がすことを英語で「バーン:burn」と言いますが「ブランデー」と同じ語源です。

因みに日本の「蒸留酒」である「焼酎」の「酎」という漢字は「手を加えた濃いお酒」を表しています。つまり「焼酎」と「ブランデー」は「焼いたお酒」という共通した語源を持っているのです。

「バーン:burn」と「ブランデー」

さていよいよ本題の「ブランディング」を解説して参ります。

まず経営戦略における「ブランディング」の重要性について「マーケティング」と比較しながら明らかにしたいと思います。

競合他社との差別化において自社の「ブランディング」が達成されていれば、これほど経営者や会社にとって有利なことはありません。他社より高い価格でリピーターが繰り返し買ってくれるからです。「ブランド名」が顧客に浸透しているため宣伝費用も少額で済み、高付加価値も相まって利益率が向上します。アップルの「iPhone:アイフォン」は「ブランド」価値が浸透している代表的な例です。

「マーケティング」は売れ続ける仕組みづくりのため、顧客認知度を高める活動である「ブランディング」はマーケティング戦略の一環や一部分と捉えられそうですが、これは順番が逆で「ブランディング」の中に「マーケティング」を組み込むことが正しい道筋となります。「ブランディング」は経営者が掲げる「理念」や「信条」を全社員が具体的に表す活動によって形成されるからです。具体的な活動とは「経営理念」に基づく「使命(ミッション)」を実行することです。

「理念」に基づく「使命」の履行により企業が実現したい「世界観(ビジョン)」が全うされ、この「世界観」に顧客が共感した状態が「ブランディング」なのではないかと思います。

最近地方統一選挙がありましたが、選挙カーの中から拡声器で立候補者の名前を言い続け、有権者に「植え込み」することは「ブランディング」とは言えません。公約や政策の実行の積み重ねによって有権者に「信頼」が醸成された場合を「ブランディング」と呼べるのではないでしょうか。

「ブランディング」の事例を筆者の体験をもとに2つ紹介します。

1つ目はコーヒーチェーンの「スターバックス」です。ゆっくりコーヒーを飲みながら読書がしたい時、似たようなコーヒーチェーンは他にもありますが、迷わず「スターバックス」を選択します。おいしいコーヒーを飲んでもらうこと以上に一杯のコーヒーを通じて顧客に最高の空間と時間を提供することを「スターバックス」の店員全員が「使命」として担っていることを感じるからです。

2つ目はリゾートホテルの「星のや」です。宿泊体験以前はホテルの内装が豪華なのかな、と想像しましたが、実際に「星のや」に滞在してみると評判の意味が分かりました。ホテルスタッフによる宿泊者に対するおもてなし感の大きさです。実際、宿泊した「星のや」の全スタッフは地元の良さや食材を知り尽くし、地元愛に溢れていました。単なる飲食と宿泊だけではない圧倒的な非日常感を味わうことが出来ました。家族には次回の旅行も「星のや」をリクエストされています。因みに「リゾート」の語源は「繰り返し行く場所」です。

「スターバックス」や「星のや」に共通する点は単品で提供される商品やアイテムの満足ではなく全体感からくる「雰囲気」です。「理念」「使命」「世界観」が行き届いた商品やサービスが顧客から「共感」を得る「雰囲気」を作ることが出来るのです。数ある映画の中で「名作」と呼ばれるものは見せ場(クライマックス)だけではなく全編が醸し出す「雰囲気」が良い映画であることと共通しています。

2つの実例に見る通り、顧客に「自社ブランド」を認知してもらおうとして単に広告や宣伝により「植え付け」を行うといったものではなく、その商品やサービスを提供する企業の全社員が積上げた「信用」によって醸成されるのが「ブランディング」なのです。

「信用」によって醸成される「ブランディング」

最後にもう一度「ブランデー」の話に戻ります。先ほど「ブランデー」等の「蒸留酒」は醸造したお酒を燃焼させ、気化し、液体に還元し、アルコール度数を高めたものと説明しました。ここで疑問がわきます。お酒が強い人は「ブランデー」や「ウイスキー」、「焼酎」など「蒸留酒」をストレートで飲むのでしょうが、一般的には水か炭酸水で割って飲むことが多いと思います。アルコール度数を高めた「蒸留酒」を水で割ってアルコール度数を下げるのであれば、なぜわざわざ手間をかけて蒸留するのでしょうか。

答えは蒸留することによって「雑味」を取り除き、より澄み切った味わいを追求するためと、アルコール度数を高めることによって腐らないようにして長期保存するためです。

優れた「ブランド」は雑味もなく澄み切っており、陳腐化することがないのです。

本記事で解説する内容について、実際の言葉の成り立ちや、一般的とされる説と異なる場合がございます。

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ライター

飯田 裕康

アイザワ証券 ファイナンシャルアドバイザリー本部

飯田 裕康

1991年アイザワ証券入社。2002年まで支店のリテール営業を務め、2003年からは支店長として関西方面中心に4つの新店舗を開設。2012年の投資リサーチセンター(現市場情報部)センター長、2018年のインターネット取引部門長、2021年の投資顧問本部長等を経て、現在は西日本ファイナンシャルアドバイザリーを担当。

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