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China Market Eye “ゼロ・コロナ”の見直しに舵を切ったか?

2022.11.29 (火)

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

China Market Eye “ゼロ・コロナ”の見直しに舵を切ったか?

ゼロ・コロナ政策の実質的な緩和を発表

11月11日、中国政府はゼロ・コロナ政策の実質的な緩和措置を発表しました。①濃厚接触者に対する隔離期間を短縮する、②2次接触者について判定しない、③感染リスクのあるエリアを調整するなど、8つの防疫政策の調整が行われました。動的なゼロ・コロナ政策を堅持するとしながらも、過剰な防疫体制については見直しの方向に舵を切りました。

中国の46月期GDP成長率は市場予想を上回ったものの、新型コロナの感染再拡大を受け、10月の経済指標において小売売上高が再びマイナス成長に転じました。予想以上の景気減速と株価の下落に、ゼロ・コロナ政策の見直しが促された格好となりました。

また、世界保健機関(WHO)が「新型コロナの終わりが視野に入ってきた」ことを示唆するなど、世界的にウィズ・コロナの流れが強まる中、中国だけがゼロ・コロナを維持するのは不可能に近いでしょう。

中国のゼロ・コロナ政策の維持コストはますます膨らみ、地方政府の財政を圧迫するだけでなく、社会不安・不満を増大して景気回復を大幅に遅らせています。実際のところ、景気見通しの不透明さから家計部門の節約志向が強まっており、住宅不況を加速するバランスシートの調整局面に突入しつつあります。

さらに、欧米のリセッション(景気後退)懸念が高まっていることから、これまで堅調だった輸出ドライブにも陰りが見え始めています。中国にとって、コロナ規制の緩和による内需押上げは待ったなしの状況にあるとも言えます。

「中国売り」が一気に巻き戻しか

株式市場においては、ゼロ・コロナ政策の見直しを受けて過度な悲観が後退し、10月以来の「中国売り」が一気に巻き戻されました。香港ハンセン指数は10月末から一時25%急騰し、中国本土市場もほぼ2か月振りの高値をつけました。共産党大会の閉幕後、政治・安定から経済・成長重視へと転換することが期待されていたため、順当な政策シフトとして好感されたもようです。

ブルームバーグの調査によると、今回の政策調整により、中国経済は2023年後半にかけて段階的にゼロ・コロナ体制を脱却し、相乗効果として不動産部門のソフトランディングも期待されるため、中国の実質GDP成長率は1.6ポイント押し上げられると予想されています。

足元の中国では、新型コロナの感染が再拡大し、無症状感染者を含めた1日当たりの新規感染者数は3万人弱と、上海ロックダウン時に迫る水準となっています(下図参照)。

当局は段階的で”秩序ある”ゼロ・コロナ政策の終結を望んでいるものの、足元の冬場の感染再拡大を受け、住民に課した厳しい移動制限は依然として続いています。また、中央政府によるコロナ規制の緩和方針を実行に移していない地方政府も多いため、各地で住民の不満が増大し、一部で抗議デモに拡大しています。

パンデミックが3年を経過した今、ゼロ・コロナ政策に疲弊した多くの人々は精神面でもお金の面でも我慢の限界に達しつつある状況を如実に表していると言えるでしょう。それは、反政府運動に一気に拡大するとは考え難いものの、当局は市民の不満を無視すると一層の反発を招きかねないという反面、感染抑制の手綱を緩めると防疫体制の崩壊に繋がりかねないという難しいかじ取りを迫られています。

結局、ゼロ・コロナがますます非現実的になる中、経済情勢の悪化や市民の不満拡大はゼロ・コロナ政策の終結の早まりを促す可能性があると考えます。

中国本土・香港株式市場は、新型コロナの感染者が急増しているにもかかわらず、概ね堅調に推移し取引も活発化しています。投資家はゼロ・コロナ政策の緩和・解除の方向性を見据えて冷静さを取り戻しています。中国当局は経済の下振れリスクを睨みながら、ゼロ・コロナ政策の軌道修正を探る動きが見られるため、株式市場の「ゼロ・コロナ緩和ラリー」はしばらく続きそうです。

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ライター

柳 林

アイザワ証券 上海駐在員事務所

柳 林

中国遼寧省瀋陽出身。日本の証券会社で中国株の調査に従事したのち、2003年にアイザワ証券に入社。投資リサーチセンター(現市場情報部)で中国株の調査、分析を担当する。2005年にアイザワ証券子会社の上海藍澤投資諮詢有限公司の社長に就任、2008年よりアイザワ証券上海駐在員事務所の首席代表を務める。日本からは分かりづらい中国の「リアル」な姿を現地から伝える。

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